第12話 いつか、終えて帰って来たら話しをしょう
「じゃあ……尾田さんは、まりなが犯罪者って、知ってて乗せてくれたの??」
言いたいことが沢山あって、聞きたいことも沢山あるのだが。
どうやって、切り出したらいいのかと、言い淀んでいるんだ。
「ええ。お待ちになっているお客様を乗せるのが。
まるっきりの嘘ではない。
流れた報道に、俺は彼女を意識的に探していたからだ。
それは逃がすべくに動いたんじゃないし、警察への協力なんかでもない。
ただの興味心だったんだ。
切羽詰まった人間は、どんな顔をするのか、と。
20代の時の自身に、会いたくなったんだ。
一体、どんな顔で、あんな真似をしたのかと。ほんの少しの興味心から出た、興味本位の衝動的な真似をしてしまったんだ。人間の本性の顔を、俺は見たかったんだ。
でも、
(やっぱり。女と男の切羽詰まった顔ってのは、違うわなぁ)
がっかりした半面でだ。彼女をどうしょうかと思った、このまま旭川空港に向かうか。それとも道警に連れて行くか。いっそ、匿名通報するとかも思った。でも、しかしだよ。
そこでも、きっと俺は――もっと後悔をするのは分かっているからさ。
「お客様自身で歩いて、逝かれた方がいいでしょう。私には役不足です」
「! み、見捨てないで! ぉ、お願いっ!お願いぃい〜〜!」
彼女は頭を抱えて、膝に顔を寄せた。
堪らなく、動揺と発狂した様子に、俺も身勝手に興味半分と関わってしまったという、後ろめたい気持ちっていうのもある。
「……まだ、小さかったダンマルちゃんを我慢させるのに、私は術式を施しました。それは、《罪の意識》を現すものです。アイツに施した、
俺は路上でウインカーを点けて止めた。メーターは、そのままでだけどな。
流石に、無銭乗車は勘弁して欲しいし。
俺は、ハンドルを握っていた両手を拡げて見せた。
「? 手が、……どうかし、……え?」
左手の親指に小指と人差指。右手の小指に薬指と人差し指。
その指に濃い朱の紋様が、指の付け根に浮かび上がった。
それは、傍から見れば《指輪》の形になって見えるものだ。
足の指は、全部埋まってしまっていて、二重になってる指もある。
「お客様も如何ですか? 私と《契約》でもしませんか?」
「え」
「この輪は《契約者》と繋がっていて、先方の《指輪》が無くなれば、私の《指輪》も無くなります。その時、待ち焦がれた《契約》が、実行されるんです。何が、あっても絶対にですよ。約束は必ず決行されるてはずなんです」
「……っそ、その。どれくらいって年月っていうのは――」
「ありませんよ。その《契約者》の《罪悪感の意識》と《罪の重さ》にもよります。天秤のようにね。ああ。後、途中での《契約の破棄》も出来ない《禁術》なんですけど。死んだ気になって乗りませんか? 泥沼に」
「~~……乗るわっ。っま、まりな、……っそ、その《契約》に乗るっ!」
きっと、彼女は《契約》の為に、人生をやり直すだろう。
それでも、犯した罪が消えることがないのは、彼女も分かってはいるだろうけど。これで彼女自身が持ち直して全うに活きられるのであれば上等だ。
それから彼女は俺と契約を交わした。ただ、彼女が望んだのは指じゃなく。どうしてだが、俺の首だった。彼女自身は左手の小指だ。薬指を強請ったけど、それは止めさせた。彼女には、きちんとした旦那さんを見つけて欲しいからだ。
でも、首輪になるとは思わなくて、俺は何度も、ルームミラーで見返してしまう。
そんな俺に、彼女も笑いながら聞くんだ。
「それが消えたら。まりなを《17丁目》に連れて行ってくれる?」
「よろしいですよ、それがお客様の望みと有れば決行を致しましょう」
「後、……情けをくれる? まりなに」
「……いけませんよ。お客様。
「尾田さんとは、……藤太さんに会うことはもうないでしょう? お願いぃ、まりなぁ……自首するからぁ」
「――……車内でも?」
俺はネクタイを緩めた。将来を決めた女はいない、付き合ってる女もいない。
据え膳なら、頂かなけりゃあ男も廃るってもんだろう。
後悔することなんかよりは、よっぽどいいだろうさ。
「まりな、そっちの方が――大っっっっ好きだもの♡」
キレイな
美しい蓮の華は――必ず、咲くんだ。
「なんて、お客様。ご冗談でも、ご自身を大事にしてください」
白く美しく。
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