第3話

「ま、そーゆー事だ、藤堂薩摩君。あたしは君に興味も何もないしネットワークを扱わせるなんてリスクの高い事もしない。だから何も受け取らないし、何も与えない」

 教室のドアを見るといつの間にかそこに寄りかかっているのは百目鬼先輩だった。

「あ、あと一回じゃっ」

「哮太君や美女ちゃんにまであたしの情報を集るからだよ。もう少し野放しにしてあげても良かったけど、流石に端末ちゃんから緊急アラームとしてこの会話が転送されてきたんじゃあたしが動かん訳にはいかんでしょ。それに情報屋は情報屋。情報を売り買いするんだからテスト範囲ぐらいなら千円ぐらいで売ってあげても良かったけど――」

 つっつか俺より前に藤堂の前に立ち、百目鬼先輩はその頬を打った。

 グーで。骨立てて。

 痛そうだなーと他人だから他人事のように思う。

 実際吹っ飛んでいったし。藤堂。

「これが今の会話を隠蔽してあげるお代。さて、帰るよ哮太君、美女ちゃん」


 もっと地味な格好してればいいのに。言うとにゃははっと百目鬼先輩は笑う。

「とんちきな格好でいた方が変人は釣れるもんだよ。ああいう奴もね。さてと、デパート寄って今度は青の口紅でも買おうかな」

「チアノーゼか」

「あらよくご存知。もうちょっと変な格好した方が良いのかねー」

 ふう、とため息を吐いた百目鬼先輩の腕に、乙茂内も引っ付く。

「今日は撮影ない日だから、美女も付き合いますっ。哮太君もね、ねっ?」

「俺あのデパートのBAさんに確実に顔覚えられてる気がすんだけど」

「いいじゃない。美女ちゃんの誕生日なんかにもアドバイスしてもらえるわよ」

「のわっキツネさん!?」

 玄関を出た所で待ち伏せしていたキツネさんは、くすくすと笑いながら俺達に加わる。おそらく最初から分かっていたんだろう、彼女には。藤堂の思惑も、それによって百目鬼先輩が少なからず傷付くことも。だからここで待っていた。ドン・キホーテなんて重い本を読みながら。

 あははははっと笑いながら百目鬼先輩はキツネさんの腕に引っ付く。探偵部団子だな、と思えば俺も笑えて来た。

「私と哮太君は先に自転車取りに行くから、二人は行ってらっしゃいな。すぐに追い付くから」

「はーい!」

「はいなはいはいりょーかいっとな」

 二人が出て行ったところで、キツネさんが俺を振り向く。

「耳目ちゃんはああいう子だからね。ちょっと隠しがちな弱さも持ってること、忘れないであげてくれないかしら。哮太君」

「はあ」

「情報ネットワークなんかやってるから人間不信気味なのよ。言葉の裏を読むことに慣れちゃってるって言うのかしらね。だからちょっと壁が高い」

 それはキツネさんの事だと、百目鬼先輩から聞いた気がする。

「でも懐に入れた相手には満遍なく優しいの。だから傷つきやすい。哮太君もあの子の事、お願いね?」

「俺は何をお願いされたんですか」

「とりあえず気晴らしのデパコス集めにも付き合って欲しいって所かしら」

 うふふ、と笑ってキツネさんはチャリに乗った。俺もそうする。

 何だかんだ部長だな、なんて、思いながら。

 本当この人には、敵わない。

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