第4話

「俺が探偵部に入る事になったきっかけお前か乙茂内!」

「ごめん哮太君、ずっと隠してた! でも卒業式だから言う! 美女とお友達になってください!」

「この三年間は何だったんだよ!」

「と、友達以上恋人未満?」

「既に友達になってんじゃねーか! なげえよ、期間がすげーなげえよ!」

「ま、ここは折れて差し上げなさいな、哮太君」


 くすくすと悪趣味にも制服姿でやって来たキツネさんが言う。意外とまだイケる。


「ですですよ! 二人一緒だったらどんな壁も突き破れるに決まってるです!」


 さっきまでローションティッシュで鼻を噛んでいたタヌキちゃんまで言う。


「まあ良いじゃない、相思相愛なんでしょ? 知ってるよー哮太君てば美女ちゃんが載ってる雑誌従妹から貰って美女ちゃんスクラップを」

「百目鬼先輩やめて! こえーよ百目鬼地獄、どっから漏れるんだよ!」


 なぜか学ラン姿で見物しに来た百目鬼先輩と並んで、キツネさんとタヌキちゃんが笑う。

 仰げば尊し、この部の恩。

 ……恩なんてひとっつもねーよ!


「あの、哮太君、今のって本当……?」


 真っ赤になった乙茂内に、俺はぐいっと乙茂内から借りていたスマホを突き付ける。


「ラインの相手がお前しかいない程度には、好きだよ」


 真っ赤になっていると、キツネさん達のお姉さんがチャンスとばかりにデジカメのシャッターを切る。

 案外乙茂内が俺と同じ大学を選んだ理由も、そうなのかもしれない。

 でもこいつバリバリ理系だから、そのうち物理取らなかったこと後悔するんじゃないだろうか。俺と一緒に文系クラスだったけど。

 何か才能を一つ潰してしまったような気がして、それはちょっと、勿体ない気がした。


「それで、医者志望の釘バット犠牲者はその後どうなったんです?」

「自分が医者に掛かる羽目になったみたいね、内臓破裂が一個だったかしら、二個だったかしら」

「こえーよこの部! タヌキちゃん、いつでも廃部にして良いからね」

「はいっ新歓頑張ります!」

「絶妙に話聞いてないなこの子も!」

「おねーちゃん達が作った部ですから!」

「初代部長はそこでカメコしてるうちの姉よ」

「この学校は十年近く佐伯家の支配を受けていたのか……」

「まあでも、私が卒業するころにはもっと良い生徒管理システムが出来てるですよ。そーゆー実験、おじーちゃん大好きですし」

「おじーちゃん?」

「理事長の百合籠壱久ゆりかご・いちひさよ」

「俺達に言ってないことが多すぎませんかキツネさん! キツネさーん!!」


 まあ、なんだ。

 仰げば、尊し。

 何もかもが。


 乙茂内がぴとっと俺の肩に額を預けて、すりすりっと猫のように懐く。


「だ、大学でも、必修は同じなんだから、一緒にいてね? 哮太君」

「……その前に新しいスマホのデータやるから、受け取ってくれ」

「う、うんっ!」


 ぱあっと笑った乙茂内がこの後理系も文系もないモデル業界の覇権を取るとは予想も出来ない俺達だった。

 そしてその間もお付き合いが続くと言うのは、俺の大誤算でもあった。

 面倒くさいから結婚しようよ、なんてダイナミックな告白を受けるなんて、まだまだ十八歳の俺は知らない。

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キツネさんと僕らは○○部 ぜろ @illness24

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