第3章-12 チャラ男、苦手。

 4日目になってやっと採掘を始める。現場監督がジガンで、今までの班長はそのまま班長として働いてもらう。


 実際に採掘をしている現場を見るのは初めてだ。えぐいほどの肉体労働で環境も悪い。蒸し暑いし塵も多い。気を抜くと小石が頭に当たる。


 取り敢えずヘルメットを200個注文した。金貨5枚もかかる。地味に高い。



 鉱石を袋に入れて運ぶというのは流石に効率が悪い。

「鍛冶部さん。新しいお仕事を頼みます」


 鍛冶部は、本格的にダメになった道具を整備する仕事の予定。ただ、2人なのでヘルメットは外注。


「鉱山内にトロッコ引きたいんだけどどう思う?」


残念ながらトロッコの文化がなかったので、下手くそな絵を描きながら説明した。


「線路を引くのは大変だと思いますぜ。坑道は真っ直ぐじゃないからな」


「鉱石を持って運ぶのは負担が大きいからなんとかしたいんだけど」


「ならリアカーでいいと思うが」


 リアカーか。少しは楽になるのか。


「じゃあそれを作ってほしい。何人かで押せるといいな」


 1時間もしたら試作品が出来るだろう。それまで仕事がない。また暇になった。




「ユウさん、サクラサケから人が来ました」


朝寝してたら護衛くんに呼ばれた。




「えっと、あなたがユウさんですか、中坊?」


イラッ


「僕がユウです。地球では大学に通ってたはずです」


無礼な人。こいつ多分、支部を作りに来た人。20くらいの若者だ。

 本来なら大学生であることを強調しておく。


「あー、タメっすかね。俺は翔(かける)って言います」


トキトキの髪型やイヤリングを見てわかる。チャラ男だ。


「翔さん、今日は何の御用ですか」


チャラ男って苦手なんだよね。


「いやね、この街にも支部を作るって事で下見っすよ。あと、内緒なんですけど鉱山がちゃんと機能してるかも調査対象なんすよー


そのさ、「鉱山が機能してるか」ってやつ、俺に対する抜き打ち検査じゃないかな。その内緒って俺に言うなって意味だと思う。


「じゃあ案内役にナル、僕の部下をつけます」


 俺にはリアカー作りを監督する仕事があるから。決してチャラ男を相手にするのが嫌なわけじゃない。


「部下ってなんすか部下って。奴隷でしょ。獣人の。嫌っすよ、汚い。」


 なんだこいつ。差別主義者か。サクラサケには珍しいタイプだな。まぁこっちの世界の大半がこういうタイプだから慣れっこだけど。


「嫌なら僕が案内しますが」


 忙しい感を含ませて言ってみる。伝わるかな。


「あ、おなしゃーす」


 俺が相手することになった。俺の心の内をよんでくれなかった。

 護衛くんにリアカーを押し付けた。




 事務的な会話だけで全部済ませた。初対面に厨房と言いやがったことや、ナルを馬鹿にしたことで仲良くする気はない。仕事だけの関係だ。

 そういえば、俺がナルを部下って言ったあとにも、バカにしてたな。俺にも配慮する気もないんだな。



「そこそこちゃんと機能してそうっすね。ただ、時間を持て余してる奴隷がいるのが気になるっすね。飯作るのに7人は多いっすよ。あと看病してるのも4人もいらないっすよ。手持ち無沙汰にしてる奴隷がいたっすよ。まぁそんなもんっすね。鉱山の中に入る気はないんでそこは知らないっすけど、ちゃんと現場見たほうがいいっすよ」


 このチャラ男、ちゃんと仕事してる。まじか。

 指摘されたところ、正直ちゃんと見てない。少ないより多くの人のがいいと思ってたけど、暇してる人がいるのは良くないな。


「参考にしつつ、改善していきたいと思います」


 

 ついでに支部をつくる物件探しを手伝うことになった。


「その、支部を何に偽装させるかって決まってるんですか」


「いや、決まってないっすよ。ただ、サクラサケってわからないようにする必要があるんで、物件を探してからっすかね。鉱山と遠すぎず近すぎずってのが理想っすけど」


 鉱山の周りにはあまり建物がないぞ。結構離れないと偽装できない。

 不動産的な仕事をしている人に、鉱山の関係者とバレないように要望を伝える。


「なんとも曖昧なご希望ですね。宿を経営していた方がなくなって手放した物件がありますが」


 

 それは鉱山から徒歩30分くらいの場所にあった。建物のサイズは3階建てで、部屋は豪華で厩舎も大きい。厩舎には荷車をそのまま置いておけれる鍵付きの部屋がセットになっている。

 お金持ち用の宿屋だ。最近買い取ったらしい。

 内見をした感想は良い物件だ。金貨で500~600枚くらいかな。


「いいっすね。これ、買います。いくらっすか」


「金貨600枚でどうでしょう」


 まぁ無難な値段かな。


「高すぎっすよ。ところどころ木が傷んでるし250枚っすね」


 傷んでるような場所あったかな。と言うか低く言い過ぎじゃないか。


「ご冗談を、高級宿屋として長いあいだ営業していたのですよ」


 金額を提示してこないのは相手にしないつもりか。


「調理場の棚の後ろが傷んでたっすよ。確認してないんすか」


 そんなところまで見てたのか。仕事が細かい。


「それは確認しておりませんでした。金貨500枚でいかがでしょう」


 いっきに100も下げてきたぞ。やるな、チャラ男。


「厩舎の壁も傷んでたんすけど。どう思います」


 チャラ男が俺に振ってきた。やめてよ急に。

 それ、俺気がついてないから。厩舎とかチラ見しただけだからごめんね。


「あーそれは僕も気になりましたね。修繕にいくらかかるのやら」


 大丈夫、だよなこの回答で。


「申し訳ありません。それも確認しておりませんで」


 冷や汗出てる。かわいそうに。


「それで、いくらになるんすか」


「330枚まででしたら。それ以下はちょっと」


 330で買ったのかな。350じゃなくて330ってのに違和感がある。


「しかたないっすね。それでいいっすよ」


 少々強引な値引で宿を手に入れた。チャラ男が即金で330枚払って契約を締結した。

 

 棚の裏を見に行ってきたけど特に傷んだ様子はなかった。


「傷んでる場所ってどこですか」


「いや、そんなのないっすよ。もちろん厩舎もうそっす」


 それってバレたらやばくね。


「棚の裏にホコリが溜まってたんすよ。厩舎も同じくっす。それって買い取ってから掃除してないってことじゃないっすか、浄化をかけることすらしてないんすよ。ならバレないっすよ」


 マジか。こいつめちゃめちゃ優秀じゃん。




「このまま宿屋として使うのがいいっすかね」


 他の施設にすると無駄な金がかかるしこのままいいんじゃね。


「ぶっ飛んだ値段設定にしてサクラサケの人以外は利用できなくすると、それなりに機密性を保てるんじゃ」


「それいいっすね。2,3日後から何人か常駐する予定なんで、その時は案内してやってくださいっす」


 意外といいやつなのか、な。次の人の心配してる。


「じゃあ、俺帰るんで。何か手紙とかあれば届けるっすよ」


 やっぱりいいやつだ。


「じゃあ少しだけ待っててもらえますか」


 俺に手紙を書く相手はいないが姉には妹がいるだろう。


 もちろん姉は、一回断ったがナルが無理やり書かせた。

 その間に炭をチャラ男の車につんだ。木酢液は「臭い」と文句を言われたので、ドッジボール大の鉄箱に詰めて溶接した。これで臭わないだろう。わざわざ手紙に気を回してくれたのだから、こっちも丁寧に対応しておく。



「じゃあこれからも頑張ってくださいっす。手紙はちゃんと美鈴さんに届けるっすよ」


 チャラ男は去っていった。

 昼飯は食べずにかえった。たぶん奴隷といっしょに食べたくないから。




 あ、お金貰っとけばよかった。

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