第3章-13 トーゴを憎めない

 最短で明後日から支部に人が入る、とするなら軽く掃除くらいしておきたい。

 あと、病院と食堂、人が多すぎると言われたから減らさないと。


「ナル、病院と食堂には人が多すぎるって言われたんだけどさ。適当に何人か雑務にしようと思うんだけど」


 そういえば初めてここに来たとき、メイドっぽい人がいた。メイドも雑務の仕事にしてやろう。いや、食堂の仕事を雑務にして、7人全員雑務にするってものありかも。


「雑務って何をするのにゃ?」


「うーん。掃除とかいろんな部署のお手伝いとか細々としたことかな」


 意外とぱっと仕事が思いあたらない。


「じゃあ2つの部と話しながら何人か選んできて。器用な人とか字が読める人がいいな」


 識字率は20%程度だが、ここの人間は多くが農民であることを考えるともっと低いと思われる。しかも女性はもっと低い。ばあさん、マイヤは読み書きできそうだが流石に使えない。


「選んだら昼飯の後に俺のところに来るよう言っておいて」




 昼飯の時間になると鉱山からゾロゾロと人が戻ってくる。みんな憔悴しきった顔だ。


「いいよなー女は仕事が楽で」「俺もあっちがよかった」


 なんか女性優遇に不満が出始めてる。空気がギスギスしだしたら嫌だな。うまく雑務が稼働して生活環境が良くなれば不満は減るだろうか。




「昨日今日で悪いんだけど、あなたたち、今から雑務ね」


 ナルが連れてきたのは女性3人。みんな40代くらいのおばさん。可愛い子は鉱山なんかに来ない。


「基本的な仕事は掃除。人手不足の部署でお手伝い」


 2階建てとはいえ200人以上が生活すると掃除は大変だろう。

 誰も何も言わない。


「あと、読み書きができる人、いる?」


 おばさんAとBがそっと手を挙げる。


「2人か、じゃあ計算ってできる?」


「私は足し算と引き算だけなら」「できません」


 おばさんAが1番優秀のようだ。名札によるとミリさん。


「じゃああなたがリーダーね。とりあえず建物全体の掃除してきて。何かあったらあなたが報告して」


 人手が余ってるからって無理やり雑務を作ってみたけど、何か仕事を考えないと腐らせてしまう。

 



 ナルはトーゴを締め上げつつ、鉱山の全容を書き記している。ナル曰く、今日中に片付きそうらしい。そうなると正直もうトーゴいらない。人件費高いし。


「ユウ様、ちょっとトラブルにゃ」


 ナルがトラブルで手助けを求めてくる事はほとんどない。大抵のことは自分で解決してくれる。


「トーゴが仕事辞めたいっていうにゃ」


 え、ちょうど良くね。


「わかってないのにゃ。トーゴはあれでちゃんと仕事をしてるし顔が広いにゃ。引き止めておくべきにゃ」


 ナルがそういうのであれば、引き止めるかは別として理由ぐらい聞きに行くか。




「やめさせてくれ」


 理由を聞いてこの返しを食らったのがこれで3回目。


「理由を話してみるにゃ。手伝えることもあるかも知れないにゃ」


 なぜかトーゴに肩入れする。辞めたいなら辞めさせてやれよ。

 ほら、トーゴも言いたくなさそうじゃん。


「金がいるんだ」


 確かに給料は金貨125枚なんて出せないので、金貨5枚以下にするつもりだが。


「給料を出さないとは言ってないぞ。働きしだいだが、金貨3枚以上は出すつもりだ」


 金貨3枚でも中の上くらい。


「それじゃあ足りないんだ」


 借金でもあるのかな。金貨3枚で足りないとは考えにくい。


「どうしても、あと10日で金貨が、72枚が、なんとしても稼がなくては」


 いやいや、10日で金貨72枚とか絶対無理だから。犯罪に手を染めても難しいだろ。

 トーゴは力いっぱい手を握り、少し涙を溜めている。


「ま、まぁ落ち着いてくれ。その、理由しだいでは貸すぞ」


 あ、貸すって言っちゃった。


「娘が病気なんだ」


 あー嫌なこと聞いちゃった。もう引けないし、なんとかしてあげたい。お金で解決するならいくらでも出せる。流石にこれが嘘ってことはないだろう。



 涙を見せるオッサンの話を要約すると、娘さんは生まれつきの病気らしい。その病気は治すことができず、エルフの秘薬を使うことで延命し続けているらしい。そのエルフの秘薬が1つ金貨120枚、1つで30日延命ができる。10日で金貨72枚というのは、コツコツためていた貯金が金貨48枚あるからのようだ。

 ちなみに奥さんは出産時に亡くなったそうだ。

 なんというか、救われない。なんとかできないものか。



「まぁお金はなんとかするよ。だからここに残って働いてくれ」


「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます……」

 

 トーゴが泣きながら同じ言葉を連呼する。本人も10日で大金を稼ぐことができないことは、わかっていたのだろう。張っていた気持ちがプッツリ切れたみたいだ。

 ナルも涙を拭って笑顔になる。


 とりあえず金貨72枚くらいなら、もうすぐ来る支部の人が持っているだろう。いや、今回の72枚はまだしも、これから毎月120枚用意するのは俺の独断だけだと怒られそうだ。久しぶりに帰ろうかな。仕方ない、仕事だし。


「じゃあ明日にでも一回本部に帰ってお金持ってくるわ。」


 姉にも上手く仕事が回せてないし、本人も上手くいっていなく、ストレスも溜まっているだろう。連れ帰って妹に会わせてあげよう。


「明日の鉱山はどうするのにゃ?」


「全部ナルに任せるよ。お金は全部渡しておく。お金は食堂部が必要とするけど、雑務にやらせといて。練習がてら」


 なんだかんだ細かいところはナルのがよく知っている。大まかに伝えておけばなんとかやってくれるだろ。


「あと、トーゴ。今回は出すけど、次回以降ずっと払い続けれるかはわからん。明日本部の人に掛け合うけどダメだと言われたら、悪いけど力になれない」


 先に現実を伝えとかないと後に「やっぱダメでした」なんて言えない。トーゴも了承した。まぁ実際にNoと言われたら後味が悪いし120枚くらい渡すけどね。


「じゃあそういう事で、明日は俺もランも居ないし、トーゴもちゃんとナルのサポートしてね」


 明日帰るの、ランも喜んでくれるといいな。

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