第3章-3  BBQ大会

「えーと、今、この瞬間から、この鉱山の管理責任は私達が請け負うことになりました」

この瞬間、くらいまで声が上ずったのバレたかな。


 マッチョ兜に怯んだので階段の途中から話している。あいつら皆俺より頭1つくらいでかいし。


「あなた達にはこのまま私達の下もとで働くか、この鉱山で働くのを止めるかを選択する権利があります」


マッチョ兜達がざわつく。怖い。

そして何故か豚の顔色が悪くなる。


「自己紹介してないにゃ」

 耳打ちでナルが教えてくれた。もうナルがやってくれよ。



「遅れたが私達はサクラサケに所属している。私の名前はユウだ。疑問、質問も沢山あるだろう。何でも聞いてくれ」


一斉に10以上の声がかけられた。聖徳太子呼んでこい。


「ちょ、ごめん。手を挙げて。一人ずつ当てるから」


意外にも素直に手を挙げてくれた。


「じゃあそこの人」



 右端のマッチョ兜Aを指名する。


「鉱山をやめるってどうゆうことだ。残りの刑期はどうなる」


「ん?あなた達はグラフルに雇われてるんじゃないのか」


「俺らは強制労働だ」


 答えてくれたのはAの隣のマッチョ兜B。


 鉱山は基本的に貴族や皇族が所有していて、何人か人を雇い、奴隷を持たせて採掘をさせる。つまり、豚はグラフルから給料を貰っているのだ。グラフルの話では20人くらいを雇っていると聞いていた。だから今、目の前にいるマッチョ達が雇われた者だと勘違いした。




「説明するにゃ」

 ナルが豚に詰め寄る。


「えっと、その。今は、ワシひとりと言いますか」


「いつからだ」


「それは、えー、最近です、はい」


 埒があかなそうだ。


「ジガンさん、いつからですか」


 豚はジガンの顔を睨みつける。ジガンも豚の顔をみて少しだけ頷く。絶対、少し短めに言うだろう。


「昨日からだ」


 さすが脳筋、嘘が下手だ。豚もガックしとばかり下を見てる。


「あーもういいや、今度ちゃんと話を聞くから」




 前でこそこそと言い争ってるのは、他の人に迷惑だからここいらでとめる。


「えーと、ごめん。辞めるどうのこうのって話はなしで。このまま働くことを前提に何か質問はありますか……ではそこの人」


 真ん中にいるハゲ兜C

「ボスはどうなる」


案外、豚の信頼度は高そうだ。


「取り敢えずは本人の意向次第ですね。ただ、今までの功績なども考慮して、給料面の評価をつけます」


悪いことやってた人に高い賃金はあげません。

豚はバツが悪そうな顔をしてる。



「じゃあ次、……左から2番目の人」


左から2番目のハゲ兜D


「何か変わるか、生活」


結局、これを聞きたかったんだろう。ザワザワが一番小さくなった。


「今、どのような生活をしているか知らないが、少なくとも衣食住において質が下がることはない。多分良くなると思う」


おーーっ

狭い部屋に響めきが走る。喜んでもらえて何より。



「夕飯はいつもどうしてる」


「奴隷の一部が作っている。もうすぐ作り始める頃合、です」


 豚が無理して丁寧語を使ってる。


「食事の内容は」


「私とここの者は、パンとスープと肉類です。その他はパンとスープだけです」


 メニューが少なく栄養も偏りそうだ。


「合計で何人分になるの」


「私たちの分が20人分と他に200人程です」


 俺らの存在を周知し、第一印象を高めるためには宴会がいいか。

 でもその分の料理を用意させると、調理を担当する奴隷に負担をかけそうだ。


「肉を焼くようなコンロってたくさん準備できる」


「昔使っていたものでよければ30個くらいあるぞ」


 ジガンが教えてくれる。


「よっし、今日の夕飯はバーベキューにしよう」





 20人に「俺らで準備する」というと不満の声が上がったが、「肉食い放題」の一言で一気にやる気を出した。流石マッチョだ。

 大量の肉に酒も買うとなるといくらかかるか。炭も相当量欲しい。


「えーと…」


 そういえば豚の名前を聞いてない。まぁいいか。


「肉と野菜を230人分。酒とジュースも全員分。炭も買ってきて。ほかにバーベキューに合いそうなものがあればそれもよろしく」


 ひとり銀貨5枚と考えて金貨11.5枚、足りないと可哀想なので金貨を15枚、豚に渡す。

 豚は2人連れて馬車で買い物に出かける。

 「なんで俺が」とか文句を垂れていたが、逃げたりはしないだろ。




 準備を始めて1時間、建物のすぐ外にBBQセットが何十個も並べられている。一番前には荷馬車いっぱいに肉や飲み物が積み込んである。炭には火がついていてあとは肉を焼くだけだ。

 炭が焚いてあるコンロの前で奴隷たちが食事の時間を待ち望みにしている。殺意さえ感じる。これ以上待たせたら殺されそうだ。



「えー、今日からこの鉱山を取り仕切るユウだ。細かい話は明日にしよう。今日は肉の食い放題だ。酒もたくさんあるので楽しんでくれ」


 さっきの20人は体がガッチリとしていたが他の200人はひょろい。女性や子供も三分の一くらいいて、心が痛む。姉やロリよりはマシだが。

 坑道の外なのにかかわらず、帽子を被っている人が半分位いる。多分獣人。


 なかなか手をつけなかったが、前で俺たちが肉を焼き出すと、我慢できなかったようで徐々に食べだす。金貨15枚分の食料を一日で消費し切りそうだ。



 30分も経てば肉は粗方片付いたのに、酒の消費は少ない。


「なんで酒の消費が少ないんだ」


「明日も仕事なので抑えているのだろう」


 随分酔っ払った豚が応える。酒くせぇ。

 奴隷たちは仕事に真剣なのだろう。明日を気遣ってお酒に手をつけないとは。


「あー、食べながら聞いてくれ。明日、仕事は休みです。明日のことは考えずに食って飲んでくれて構わない」


「それは困る」「やめてくれ」「働かせてくれ」


 聞き取れたのはこの3つ。他にも多くの文句が浴びせられる。

 こいつら休みたくないのかよ。



「どういうことだ」


「休むと食事が出ないではないか」


 豚は一切顔の表情を変えずに応える。多分これが普通なのだろう。

 反応には納得した。


「明日は休みだがちゃんと食事を出すから安心してくれ」


「本当か」


「本当だ」


 まだ疑惑の目を向ける。今まで死活問題だったのか。


「なんなら明日のメニューを今決めようか。全員で相談なり多数決なりして、明日の朝昼晩のメニュー決めていいよ。但し、調理と買い物はみんなにしてもらうのと、この町で買えるものにしてね。お金はいくらかかってもいいよ」


 ちょっと無茶ぶりだったかな。ざわざわに困惑が多い。


「食事の内容をまとめて教えてくれ。あと、調理する人もちゃんと決めといてね」


 豚は酔いが回って役に立たなそうなのでジガンにすべてを押し付ける。




 肉も酒も底がつく頃、やっとジガンがまとめ終わって報告に来た。


「だいぶ金がかかりそうだが大丈夫か」


「まぁいいよ」


「まず朝飯。パン、スープ、焼き肉、サラダ」

 朝から肉か。


「昼飯。パン、スープ、焼き肉、サラダ」

 同じかよ。


「次が夕飯なのだが」

 どうせまた同じメニュー。


「今日と同じが良いと、大丈夫か」


 バーベキューって時々やるから楽しいんだけどね。


「いいよ、まとめてくれてありがと」




「明日のご飯決まったみたいでなにより。もうお酒も回って気持ちいいことだろう。ここいらで解散にしよう。明日、ご飯を作る人は朝に俺のところに来てくれ」


 食べ残しも無く、片付けもちゃんとしてくれる。



「じゃあ、俺たちは適当な宿に泊まるから。また朝には来るよ。明日の採掘はなしで」


 ジガンに簡単な指示をして、宿を探しに向かう。


「宿にアテはありますかね」


「いや、まだ特に考えてないんだけど」


「何か希望があれば合う宿に案内するぞ」


 ジガン、見た目のいかつさに反していい人だ。嘘も付けないし。


「ではお願いします」




 4人で2部屋以上取れそうで、暫く泊まれて、ここまであんまり遠く、そこそこいい宿。という、中々めんどくさい要求を出したのに、ちゃんといい宿まで案内してくれた。それどころか口利きをしてくれ、部屋を4部屋同じフロアにしてもらった。


「わざわざありがと」


「いいもの食わしてもらったからな」


 ジガンはかっこよく去っていった。

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