死を運ぶ、風

「オレ、この戦争が終わったら……結婚するんだ」


 戦場ではそんな浮ついたことを言ってる奴から死んでいく。


 20XX年、春。勃発した戦争は日本中を阿鼻叫喚の地獄へと叩き落とした。

 最前線で戦う俺は、今日もフル装備で戦場へと赴く。そこで俺たちは人類に害をなす敵〝シダァ・P〟を相手取ることになる。厳重な対策を講じ、万全な状態を整えて臨まなければならない。だがそれでも、敵は防御を突き破ってくる。

 俺は錠剤を口に放り込んだ。

 苦痛を和らげるためなら、ヤクにだって頼ってやる。

 フッ、と自嘲気味な笑いが漏れた。俺も落ちたものだ。数年前まで、戦いなどとは無縁の生活を送っていたというのに。今となっては薬に頼らなければ生きていけない。

 そしてそれは友人のカズシも同じだった。

 彼もまた、シダァ・Pとの戦いを余儀なくされたひとりだ。この前、敵の侵攻が弱まったらその時こそ恋人と結婚式を挙げるのだ、と嬉しそうに話していた。小さなケースに大事にしまった恋人との写真も見せてくれた。俺は、そんなあいつに、頑張ろうなと声をかけてやったのを覚えている。

 そのカズシが。

 戦場でひとり、うずくまっている。

「カズシ、大丈夫か!?」

「サトル……。オレはもうだめだ。目と、鼻をやられた……」

「ッ! 見せてみろ。……大丈夫だ、おまえは助かる。俺が助ける!」

「オレに構うな、サトル……。薬は、おまえのために、とっておけ。おまえの分が、なくなる……」

「カズシ。何を心配しているんだ?」

「……え?」

 俺は懐から薬のパッケージを取り出した。

「そんなにすぐにはなくならない。なぜって?」

 パッケージには『アレルギー専用鼻炎薬 アレリガEX』と書かれていた。

「一日一回で長く効くからさ!」


  アレ~リガ~♪

  アレ~リガ~♪

  アレリガEX~♪


サトル「スギCedar花粉Pollen症による鼻水・くしゃみ・鼻づまりに!」

カズシ「一回一錠! 眠くなりにくい!」

サトル&カズシ「花粉と戦うあなたのパートナー、アレリガEX!」

アレリガ仙人「その通りなのじゃぞい!」


  アレリガ~♪ EX~♪ ジャカジャン!


  鷺のマークの令和製薬です。(ピンポーン♪)


  >>広告をスキップする

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る