第二章 第5話「預言者」

「はぁあ〜こんな真っ黒な気術ヴァイタリティ嫌だな〜」


友人達と別れた後、1人石ころを蹴りながら帰路につく少年。

時折黒い短剣をどこからともなく出現させため息をついている。


「ワンッ!」


「あっ犬だ」


少年の前に小さな黒い犬が姿を見せる。

その犬はまるで母犬を見つけたかのように甘えた声を出しながら少年へ近づく。


「お前も真っ黒だな…」


少年は犬を撫でながらまたぼやく。


「俺ももう帰るからお前も帰りな」


と言って少年は犬と別れまた帰路につこうとする。

だが、その犬はしっぽを振りながら少年の後をついていく。


「ん?どうした?お前1人なのか?」


その犬は寂しそうな声を出す。

すると少年は犬を持ち上げ笑いかける。


「んじゃあ、うち来るか!」


「ワンッ!」


少年は黒い子犬を抱え家へと駆け出した。


◇◇◇


「チョコ?」


俺が目を覚ましての第一声が小さい頃にひろった黒い犬の名前だった。

さっきまで幼少期の夢を見ていた気がしたが、そんなのはこの状況を見て吹き飛んだ。


「なっなんだこれ!?」


俺はいつのまにか病室らしき部屋のベッドで寝ていて、しかもそのベッドに縛り付けられていた。


「あっ月永くん!よかった〜目を覚まして」


「ハヅキ?」


一瞬なんのプレイかと思ったが


「うん、大丈夫そうだね」


と言って俺を縛っている縄に手をかざす。


「解除」


すると縄はスルスルと解けハヅキの手へ集まっていく。


「すごいでしょこれ、封気縄ふうきなわって言って術式で動く気力ヴァイタルを封じる道具なの」


「なんで俺がそんなのに縛られてんの?」


「月永くんは憶えてないんだ…」


「え?」


少し深刻そうな顔に戸惑う。

そしてハヅキは俺が何かの力で暴走したこと、支部長室であったことを話し始めた…


◆◆◆


「しっ支部長!落ち着いてください…」


郷田隊長が慌てる。


「あぁ…セリカ、要件は聞いてるな?話せ」


あまりに高圧的…私なら泣いちゃうかも…

そんな思いとは裏腹にスピーカーからは明るい声が響く。


「ハイハァーイ、まずセリカの預言が間違ってないか、だけどそれはないよ〜だってセリカは神様から言葉を預かってそれを伝えてるだけだから間違ってるとすれば神様だね〜」


預言…あっ聞いたことあるかも、“預言者セリカ”。詳しくは知らないけどそんな人がいるのは噂で流れてきてたような…


「で、暴走の件だけど暴走したのは影の子の方?」


「…そうだ」


「ん〜ならとりあえずは大丈夫だけど、今は誰にもどうしようもない事だから要注意かな〜」


「おい、何も答えになってないぞ!どうしようもないとはどういうことだ、あの力はなんだお前なら知ってるだろう、それと、“の方?”と言ったな他にも誰かあのような力を持ったやつがいるのか?」


私は驚いた、次、スピーカーから聞こえてきた声は人が変わったように低く少しゾッとするような声だった。


「ダメだよぉ?これ以上は君たち一般人が安易に踏み入ってはいけない領域…レイコちゃんは分かるでしょぉ?」


「…チッ」


支部長の悔しそうな顔、初めて見たかも…でも、支部長を黙らせるってセリカって人いったい何者なの?

そして、次はまた元の明るい声に戻っていた。


「まったくもぅ〜レイコちゃんは欲張りさんなんだから〜♡レイコちゃんはこんな小さい頃から知ってr」


ブツッという音とともに声は聞こえなくなった、たぶん支部長が通話を切っちゃったみたい…


「…今のを踏まえて、命令を出す…失った気憶ロスト・メモリーの訓練は再開、月永の方はこれ以上何かしようがない、目が覚めたら今まで通り任務と訓練に戻ってもらう…以上」


◆◆◆


「って言うのが昨日あったことだよ」


つまり俺が暴走した理由は分からない…その失った気憶っていうのでもない…もどかしいな…というか


「昨日!?」


「そう昨日だよ、だから月永くん丸一日寝てたんだよ」


「マジか…」


そうこうしてるうちに支部長室の前に立っていた。

「失礼します」と言って2人で入る、そこには支部長の他にすでに見慣れた3人がいた。


「おうよく寝てたじゃねぇか」


「おはよーヒロト」


「よかった、別になんともなさそうだね」


「おぅ心配かけちゃったな」


と皆が迎えてくれる、その奥に支部長が座っていた。


「月永、特に異常はないな?」


「はい」


「念のため今日は任務には出ないでもらう、訓練等はして構わん…やつにどうしようもないと言われればどうしようもないのだろう、お前の暴走した力は我々には未知のもの、お前も気をつけておけ」


「わかりました」


気をつけろと言われてもどうすればいいのか…


「これ以上は特にない、月永以外は任務へ行け」


と支部長が手のひらをはらりと翻す。


「はい!」と言って俺たちは支部長室をでた。

そして、ショウスケが口を開く。


「任務っつっても今日は街の見回り、気にせずゆっくりしとけ」


「お前に言われなくてもわかってるよ」


一応心配してくれるのはいいが照れくさいなら別に言わなくてもいいのに…と一切俺の顔を見ないショウスケを見る。


俺はみんなを見送った後何をしようかと支部内を歩いていた。

ふと第1訓練所の横を通った時、人影が見えた。

そこにいたのは第2隊の安堂あんどうリク、篠森しのもりユキ、相馬そうまアヤカ、そして清水しみずメグミだった。

少し気になった俺は訓練所へ入る。


「何してるんですか?」


「おう!月永!調子は大丈夫なのか?」


「はい、なんともないですよ」


「ならよかった!それよりこれを見ろ!」


と言ってリクさんがアヤカちゃんの腕に付いたボウガンのようなものを指差す。


「何ですかこれ?」


「これはな!メグミさんが作ってくれたアヤカ専用の戦闘具だ!」


「じゃーん!」と言いながらアヤカちゃんが腕を上に上げる。


「で、これを試しに打ってみようって話をしてたんだ」


「こんな小さいので闘えるんですね」


ふふんっと言う声が聞こえたかと思うとメグミさんが話始める。


「これはね?軽さを重視して一応木製なんだけど色々な加工をして硬度を限界まで上げてるの、しかもアヤカちゃんの付与エンチャントの効果が乗りやすいように気力を取り込みやすい木を使ってるの」


「それって…」


自然の怒りナチュラルビーストなら心配ないわよ?気力を溜め込んでる訳じゃないしね、一応定期メンテナンスは必要だけど」


そうか、一度は気力をかけるものの結局は付与した能力が発現することで発散してるのか。


「月永くんもアヤカちゃんの相手になってくれない?さっきリクがやったんだけど他の人の反応も見たいらしくて」


アヤカちゃんを見ると目を輝かせていろんな方向からボウガンを眺めたり、いろんなポーズをとったりしている。


「いいですよ、やることなかったですし」


飛んでくる矢を撃ち落として欲しいと言われ、俺は少し離れた位置に立ちアヤカちゃんと対峙する。


「…じゃあ、いくよ」


「よし来い!」


と言って剣を造形し構える。

アヤカちゃんはこちらにボウガンを向け何か詠唱している、矢に付与しているのだろうさまざまな文字列や陣が展開している。


「…発射」


その瞬間俺の顔の横を何かが凄まじい勢いで通って行った…見るとボウガンにはすでに矢は無かった…


「うそ…」


恐る恐る後ろを振り返る、俺は目を疑った、そこには矢が壁に風穴を開け突き刺さっていた。

思わず顔が引きつる…


「今のが最速…」


「え?」


アヤカちゃんはおもむろにメモを取り出し何かを書き始める。


「…月永は反応できない、と」


「ちょちょちょちょい!」


なんてこと書いてんのこの子!


「ん?」


「もう一回!もう一回しない?」


アヤカちゃんは少しむすっとして「いいよ」とまた構える。

俺もこのままではダメだとプライドをかけてもう一度構える。

付与が終わったタイミング…発射してからじゃ遅い…軌道、スピード、タイミング全てを読む!

今だ!と俺は剣を振り下ろし始めるそのタイミングでアヤカちゃんは「発射」と矢を放つ。しかし…


「あっあれ?」


完全にスカ振り…矢はまた背後の壁に穴を作っていた。

アヤカちゃんはまたメモを取りだす。


「最速の矢は連射はできそうにない…使い所がポイント…あと、やはり月永は反応できない…」


俺はもう何も言えなかった…

見るとアヤカちゃんの後ろでリクさんが腹を抱えて笑っていた。


「そんな気を落とすなって!俺もやっとかすったぐらいだったから」


「カスリもしなかったんですけど…」


まぁまぁと言われ俺はその後も火球になる矢や追尾する矢などなどいろんな技の練習に日が暮れるまで付き合ってしまった…


◇◇◇


ー某所


「おねぇちゃ〜ん」


一見少女のような見た目の女が別の女にすり寄っていく。


「鬱陶しい、邪魔」


「えぇ〜ちょっと話聞きに来ただけじゃ〜ん」


「じゃあそんなすり寄ってくんな」


冷たくあしらわれる、がそれも慣れたように少女は仕方なくソファに寝転ぶ。


「あの子が少し目覚めたみたいだけど、どれぐらいの移動があったの?」


少女の方の声色が低く変わる。


「別側から5人だね、これだけの複数人の移動…影響されたのは間違いない…ていうかその声好きだな」


「急に声色変えるとなんかミステリアスっぽいでしょ?」


「どうでもいいけど私との会話中は統一して、鬱陶しい」


「はいは〜い」


少女はソファから立ち上がる。


「また何かあったら来るねセレナお姉ちゃん、あっ今度はステラも連れて来るから」


「鬱陶しいから来なくていい、あとあんまり余計なこと喋りすぎるなよ見てるからな」


「分かってますよ〜」と言いながら少女はその場所を後にする。


「さてさて〜何か起きるかな〜」


と少女はスキップしながら王都の方へ向かい始め

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