第二章 第6話「預言と予言」

俺たち第4隊と第1隊は第1訓練所にいた。


「さて、今日からまた訓練するわけだが…」


と郷田隊長が切り出す。

その手には数枚の紙を持っていた。


「お前たち5人に失った気憶ロスト・メモリーのヒント…というかあの預言者が言った言葉をそのまま教えよう、合同訓練まで時間がないしな」


「ちょっと待ってください」


俺は聞きたいことがあった。


「なぜ合同訓練までにその訓練をしないといけないんですか?聞く限り合同訓練に必須とは思えないし何よりそれまでに完全に習得できるとは思えないです」


「んん…」と隊長は困った顔をする。


「この際だはっきり言おう、俺も知らん!!」


「え?」


「正直お前たちは多少対人訓練さえしておけば十分だと俺は思う、だが…」


隊長は少し言い留まってまた口を開く。


「“予言”だ」


「予言…」


「そうあの預言者セリカの預言ではなく未来に起こることを予知する予言だ。その予言者からお前たちに合同訓練までに失った気憶ロスト・メモリーの存在を知らせること、そしてその訓練をするようにと言われたんだ…ちなみに詳しいことは俺も知らんからな」


予言者…セリカって言う人と何か関係あるのか…

くそ…知らないところで何かが動いてる、それが俺にはとてももどかしかった…


「とにかく言うぞ!まずはすでに発現した発花から!“金色に輝きし獅子帝の如きほむら、それを纏いしは緋炎のたてがみ”」


「なるほどな確かにヒントってかまんまだな俺のは」


隊長は持っていた紙をめくり次を読み始める。


「さてここからはしっかり聞いておけよ!次、麗未!“青龍の力、ころもにてその身に宿らせしは海の如く蒼きたてがみ”」


「次!速坂!“全てを見透かし掌握しょうあくする鋭利なる雷撃、それを扱えしは深緑の鬣”」


隊長は次々と読み進め、質問の隙を与えてくれない。

おそらく隊長もわからないことが多いのだろう…


「光丘!“光を奪い、支配しせしは短き鬣”」


「最後、月永つきなが!」


遂に俺の番だ。


「“堅固なる黒き装甲纏いてさらなるモノ造りしは漆黒の鬣”」


堅固なる黒き装甲…機械籠手ガントレットのことか?いや、俺が何を造形するかは関係ないはずか…

というかひとつ気になったのは全員“たてがみ”で表現されてるんだな、よく分からないが


「これで全員言ったな、とにかくこの言葉を念頭において訓練してくれ。聞くところによると失った気憶は不意にその記憶が頭に浮かぶらしい、さぁ!考えててもしょうがないぞ!訓練開始だ!」


郷田隊長はパンパンと手を叩き皆を散らせる。

このあいだと同じ組み合わせで各自訓練へと向かう、各々が預言の言葉に頭を悩ませながら…


◇◇◇


ーその日の夜


“ズゥゥゥン”まさにそんな効果音が聞こえてきそうな状態の5人が食堂で夕飯を食べていた。


「正直…任務よりツライ…」


アオイがそんな言葉を漏らす。


「第1隊の人達容赦ないよね…」


ハヅキがご飯を弱々しく口に運びながら答える。


まぁ、気持ちは分かる…俺も西園寺さんにボコボコにされたんだから…

第1隊はレベルが違う、まるで歯が立たない…2人がかりでやっと一本取れるかどうかってところだ…


「そういえばショウスケ以外で失った気憶について何か掴めたりした人いる?」


アオイが話題を振ってくれる。


「なんで俺以外なんだよ」


「…発花くんもう発現してるでしょ」


ダイチが呆れたように言う。


「まぁそうなんだけどな?あれ以来あの炎が出ないんだ、なんて言えばいいんだろうな〜その難しいんだよな、構造というか原理というか」


「そりゃ10歳の時に理解できないよな、今ですら理解に苦しんでるんだから」


「ヒロトそれバカにしてんのか」


「してねぇよ」


と言って最後の一口を放り込む。ショウスケが睨んでいる気がするが俺はあえてそちらを見ない。


「私のよくわからないんだよね…“光を奪う”って」


「安直だけど、こういうライトとかの明かりの光を吸収するってことじゃないのか?」


「そう…なのかなぁ?」


「そうだ」と俺はショウスケに聞きたいことがあったのを思い出す。


「ショウスケは発現した時どんな感じだったんだ?状況とかいろいろ」


発現したこいつなら少しでもヒントを持ってるかもしれない、そう思って聞いてみたかったんだ。


「そうだなぁ、あの時は絶対に勝つ、勝ってみせるってめちゃくちゃ思ってたな、あとやたら心臓の音がデカかった」


「それじゃわかんねぇなぁ」


俺は頭をかかえる。


「でも、今のあたし達は気持ちで負けてると思うから気持ちを強く持つのはいいかもしれないね」


「アオイ!いいこと言った!」


「でしょ!」


青い髪と赤い髪の2人を見て思う、確かに“勝ちたい”っていうのは単純だけど大きな力の源になってるのかもなぁ、そう思いながら俺は立ち上がる。


「とりあえず今日はもう解散だな、明日もあるしみんな早く寝ろよ〜」


と手を振りながら俺は寮へ向かう。

ふと空を見上げる、夜…夜は好きだ、世界が影に包まれる、けれどその中にも輝く星がある。そんな夜空に少し癒されながら自室へと戻った。


◇◇◇


ー朝、司令室


「今日は朝から自然の怒りナチュラルビーストが発生してます、目標は大型2体、移動は車を使ってください」


「了解!ではこれより第4隊向かいます!」


北潟きたかた司令長の声援を受けながら俺たちは任務へと向かった。


「全員乗ったね?いくよ」


俺は助手席に乗り込む、そして今日の運転係のダイチが車を走らせる。


「あんま疲れ取れてねーー」


「口に出すな余計に疲れる」


〈月永隊長聞こえますか?〉


インカムに連絡が入る。


「は、はい!」


隊長という響きにまだ慣れない自分がいた…


〈目標は2体とも北へ進行中、このまままっすぐ行けば背後を取る形になるのでそのまま戦闘に入れるかと思います〉


「了解、確認しだい戦闘に入ります」


俺は後ろの3人を見て言う。


「女子と男子で別れるんでいいんだな?」


「OK!」


とアオイがピースで返す、少し不安になるもののそこまで心配する必要もないかと俺は車にあった予備のインカムを渡す。


「一応これで俺とは連絡とれるから何かあったら呼べ、まあ見えない距離離れるわけじゃないけどな」


と突然車が止まる。


「見えたよ」


前を向くと大きな影が2つのそのそと歩いているのが見えた。


「よし、もう少し近づいて降りよう」


自然の怒りナチュラルビーストまで約100mほどまで近づいて俺たちは車を降りる。


「おーしっちゃっちゃと終わらせてちゃっちゃと帰ろうぜ」


「僕たちはあの熊っぽい方いこうか」


「じゃあ私たちは人型の方」


「司令部、第4隊これより戦闘に入ります。」


〈了解。周辺に他の自然の怒りの反応はありません、ご武運を〉


その言葉を聞き、俺たちは気術ヴァイタリティを発現させる。

そして、それぞれが目標へ駆け出した。


◇◇◇


「ハヅキ、ちょっといい?あたしちょっと試したいことがあるの」


「え?」


「ちょっとだけあいつの気逸らしてて!」


「えっちょっと!」


そういうとあたしは昨日、アズサさんに言われたことを思い出しながら集中し始める。


「リヴァイア…完全調和ユニゾンバースト


◆◆◆


「ふむ…数日ではあまり結果は変わらんな」


あたしはその場に倒れこむ。


「思ったんですけどこのノックっていつまでやるんですか」


息を整えながらアズサさんに聞いてみる。


「お前ができるまでだ」


「うぅ…」


しかし、次にアズサさんが言った言葉であたしは揺さぶられた。


「ひとつ…お前に足りないものが分かった」


「え?」


「“信頼”だ。お前はまだリヴァイアを信頼しきれていない、お前はリヴァイアが暴走してしまう、その可能性を恐れている…違うか?」


あたしは「違う!」そう思った。けどなぜか…声に出せなかった…


◆◆◆


あたしは完全調和状態に入る


「…いくよ」


今まであたしとリヴァイアの完全調和は100%完成してると思ってた…いや思い込んでた…リヴァイアは暴走しない、あたしがさせない!今度はリヴァイアに体も心も委ねる!


ードクンッ


「調和率200%…」


あたしは突如浮かんだ記憶に躊躇いつつもその通りに力を解放していく…


ードクンッ


「これがあたしの失った気憶!!」


リヴァイアがあたしを中心に渦を巻きその渦が徐々に小さくなっていく。そして、その渦があたしをのみ込んだ…


ードクンッ


水が弾ける…

あたしの体は綺麗な蒼い鎧を纏い、手には鋭い三叉の槍、リヴァイアのような尻尾、そしてリヴァイアにはない翼まで付いていた。


「すごい…何この感覚…あたしがリヴァイアになったみたい…」


少し見惚れているとハヅキが声をかけてくる。


「時間稼ぎはこんなもんで大丈夫!?」


「十分だよ」


あたしは気力ヴァイタルが切れる前にと自然の怒りと対峙する。


「ハヅキは離れてて!」


怪物が腕を振り上げる、それを見たあたしは地面を蹴り飛び上がる。

見ると蹴った地面がめくれ上がっていた。


「すごい…アオイちゃん…」


振り下ろされる腕を槍で跳ね返しながら奴の頭上へたどり着く。


「くらいなぁ!オーシャンズブレス!!!」


まるで海をひっくり返したかのような凄まじい水のブレスが自然の怒りを襲う。


そしてそのままなすすべなく人型の怪物は消えた。


◇◇◇


滅砕めっさい!!」


七天抜刀しちてんばっとう曇天どんてんを振り下ろしトドメの一撃を自然の怒りに放った。


「おし、終わりだな」


「見た?今の!麗未さんの!」


やけにダイチが興奮している。


「なんかあったの?」


「失った気憶だよ!」


「え?」


見るといつもはリヴァイアに乗っているアオイがハヅキの肩を借りてこちらへ向かっていた。


「大丈夫なのか?」


「ハァ…まぁね…」


アオイが車の後部座席にドカッと座る、相当気力を使ったみたいだ。


「麗未さん!あれ、そうだよね!?」


「まぁちょっと待って…話は帰ってからするよ…あたしは少し寝るから…」


「あっ…ごめん」


ダイチが言い終わるころには既にアオイは夢の中だった。

失った気憶…一度、しかもたったあれだけの時間使っただけで疲れて寝てしまうほどの疲労…

発現は出来たとしても完全に習得することなんて出来るのか…?少なくとも合同訓練までには無理だな…


車の中でいろいろと考えを巡らせながら俺たちは支部へと戻った

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