第二章 第4話「死神と影」

俺は西園寺さんへ斬りかかる。


「ブラッディサイス…」


しかし、突如現れた赤黒い大鎌に阻まれる。

ただ俺もその程度では驚かない。素早く次の一手へ切り替える。

西園寺さんは鎌をクルクルと回しながら俺の攻撃を全て防ぐ。けど、それも想定内、ここから…と剣を握り直した瞬間…


「なかなかの造形だ…だが…」


西園寺さんは俺の剣目掛け鎌を振るった、それもとてつもないスピードで


耳鳴りのような音が響く…


俺は目を疑った…西園寺さんが鎌を振り切った後、俺の剣には刀身が半分ほどしかなかった。


「は?」


そう、俺の造形の中で一番強度に自信のあった迦具土カグツチがいとも容易く折られたのだ。


「ふむ…この程度か…」


「こ…この…程度…?」


西園寺さんは自分の鎌を見ながら言う。


「相当な自信があったようだが…こちらにはキズ一つついておらん…お前の実力では我の足元にも及ばんということだ」


俺は思わず膝をつく…迦具土が折られた…それは今まで感じたことのない敗北感…


「そんな…」


「どうした?心まで折れたか?」


「くっ…まだ…氷天ひょうてん!!」


氷天を手に立ち上がる。しかし…


「え…」


数m先にいたのは“死神”の名にふさわしき殺気を放つカイブツだった…

それを見た俺は足がすくんでしまった…


「人とは弱い…実に弱い…弱いが故に強く振る舞おうとする…そしてその振る舞いとは簡単に剥がれる…現にこうやって何もせずともお前はすくみ、我に立ち向かえない…」


西園寺さんは俺の首元に大鎌をあてがう


「それではこの先死ぬぞ少年よ…」


「うっ…」


仮面の奥の瞳を光らせ、鎌を振り上げる


「己を知れ、月永よ。お前は自分の弱点をいくつ言える?その数が少ないほどお前はお前を認めてないということだ…弱さを認めろ…そして強さを疑え…その先に開く扉も在ろう…」


「扉…」


「お前に課題を課す…」


課題…それを聞いた時俺の中には今までにないほどのやる気が湧き上がっていた。


「我を倒せ…」


◇◇◇


「どうだ?」


椅子に座った北潟きたかたはインカムに手を当て、足をパタパタと振りながら答える。


「んーこれは皆さん早々に“失った気憶ロスト・メモリー”の事を言ってしまいそうですね」


「はぁ…」と私は額に手を当てため息をつく。


「奴らの性格ではやはりそうなるか…」


「まっ遅かれ早かれいずれ知る事になりますしね、いいんじゃないですか?」


「私が心配なのは余計なことを言わないかどうかだ」


「ははは…それはありますね…」


北潟も苦笑いする。すると何か思い出したように椅子から降りる。


「そういえば各支部から電報が届く頃なので、一度司令室に戻りますね、支部長」


「あぁ」


北潟は一礼して部屋を出た。


すこぶるめんどくさい…やる事が多すぎる…これでは体が保たんぞ

頼むからこれ以上何も起こってくれるなよ、と切に願いながら積まれた書類に手を出した。


◇◇◇


さすがに臭いことを言ったなと内心恥ずかしさでいっぱいになる…

しかし、隊長殿からこんな感じで言っておけば奮い立つやつだと聞いたが本当にその通りのようだ…先程とは顔つきが違う…


「プライドなんかは捨てます、いきますよ…」


月永は2本の剣を構えこちらを見据えている。


「来い…」


外套機械籠手オーバーガントレット阿修羅あしゅら剣型つるぎがた…」


すると、彼の背後に剣を持った6つの大きな腕が現れた。計8本の腕と剣、それが一気に詰め寄ってくる。


「鎖鎌…」


本来の大きさの何倍もある鎖鎌を振るう。

まず分銅部分と鎖で背中の3本の腕を止める、なおも我を狙う残りの3本の剣も鎌で止める。

ガラ空きとなった我の体へ本体が剣を突き立てる、そこへ止めた腕ごと鎌を振り落とす。


「がはっ!!!」


後頭部へ命中、しかしすぐに月永は立ち上がる。

また我へ向かい駆け出した…今度はすべての腕が不規則な動きをしている、なるほど…読ませないつもりか…

連続してさまざまな方向から剣が迫る…それらを鎌で弾きつつ、分銅部を本体へ伸ばすがそれも弾かれる

しかし、此奴集中すると無口になるのか…読みにくい…作戦か性格か…どちらにせよいい方向へ働いている…


いつまでも同じ事の繰り返しもいかん…と鎖を使いすべての剣を弾く、そして術式を交えながら月永へ衝撃波を放つ。


「我もそろそろ段階を上げてやろう…」


我は腕に付けた自傷具を3段階目まで解放する…


「死の鎌デスサイス【 ZZダブルゼータ】…」


一本の持ち手の両端にZの形に刃が付いた鎌を2本…両手に造形する。


「さぁ…おぬしの力見せてみよ…」


すると、月永は何も言わず阿修羅を解き、再び両手に剣を造形し始める…


「ん…?」


何かがおかしい…月永が黒いオーラを纏い、眼の色が変わる…


「おい…月n」


名前を言いかけたところで月永が飛びかかってくる。

鎌で受け止める…が、今までとは比にならない力…


「どうした!月永!!」


「グルルルルルッ」


まるで獣のように喉を鳴らす月永。

おかしい、聞いていた月永の“失った気憶ロスト・メモリー”と違うぞ…


月永を弾き返す、ますますそのオーラが黒さを増している。

腕と足に爪のように剣を造形し、月永の周囲には10本ほど剣が浮いている。


「月永!!」


「……」


ふむ…こちらの声は届かぬか…

何が起こっているのかはわからぬが手遅れになる前に…

と月永を無理矢理止めようと動いた瞬間、突如月永が床へ叩きつけられる。


「なに!?」


見るとそこには支部長がいた。


「北潟から連絡を受けてきてみれば、これはどういう事だ」


「すまない…我にも分からぬのだ…聞かされていた失った気憶とは違うようだが…」


月永は支部長の“重力グラビティ”を受けてなお足掻いている。

それを見て支部長がインカムへ話しかける。


「聞こえるか北潟、第4隊の訓練は一旦中止、全員呼び戻せ、…あと“セリカ”を呼べ!」


〈了解です〉


そして月永が気力切れになるまで重力はかけられ、気絶した月永は一旦隔離されることになった…


◇◇◇


「ろすと…なに?」


失った気憶ロスト・メモリーだ!…っと説明する前にその力を解け」


発花は怪訝そうな顔をする。


「なんでだ?早くこれを使いこなさないと…」


「ダメだ!早く解け!でなければ死ぬぞ!」


「は?」


と言った瞬間、発花が一瞬フラつき膝をつく。


「あれ??」


「言わんこっちゃない」


発花はさすがに気術を解いた。おそらく突然の気力低下に耐えられなかったのだろう、俺は発花に説明し始める。


「“失った気憶”…その力を持った子どもが10歳の目覚めの儀式でごく稀に現れる。だがその力は10歳の子どもが扱うには不可能に近い。理由は2つある…1つは…」


とそこで訓練所に設置されている連絡用スピーカーから聞き覚えのある声が響く。


〈連絡、第1隊と第4隊は至急支部長室へ集合願います。繰り返します。第1隊と第4隊は至急支部長室へ集合願います。〉


なにかあったのか…俺は一瞬嫌な予感が過るがそれは無いと頭から振り払った。


「すまんな発花、説明は皆がいるところでしよう。立てるか?」


俺は手を差し伸べる。


「あぁ」


発花が俺の手を握り、立ち上がろうとするが…


「熱っ!!!」


「んなっ!!」


手のあまりの熱さに立ち上がりかけていた発花を払ってしまう。

当然発花は後ろへ倒れてしまう。


「隊長てめぇ!!」


「すまん!そんなに熱いと思わなかったんだ…」


俺は発花に謝りながら支部へと戻った…


◇◇◇


私たち第4隊と第1隊は支部長室へ集まっていた。

ふと、私は月永くんがいないことに気付く。


「月永くんいなくない?」


「確かに、あいつどこいってんだ?」


「そのことは後々で話そう、郷田まずは説明を」


「はい」


郷田隊長が私たちの前へ出る。


「今聞いたが皆、話の途中でここへ呼ばれたようだから最初から話そう。」


おそらく、あの力のことかな?途中で切られちゃったから早く聞きたい、とモヤモヤする。


「さて、聞いたとは思うがお前らを俺たちが訓練している理由それが、“失った気憶ロスト・メモリー”だ。ごく稀に目覚めの儀式でこの力を有した子どもが現れる。ただ子どもには扱えられない力がほとんどで、脳が勝手にその力を使わないように記憶の奥底に封印してしまう。それを解く手助けを俺たちがするってことだな」


発花くんが質問する。


「さっき言ってた“扱えない理由”ってのはなんなんだ?」


「そう、この力を人間が無意識に封印してしまう理由が2つあると言われている。1つは単純に“消費気力が多過ぎるため”だ。さっき体験した発花なら分かると思うが今使っても数分…いや数十秒で気力切れに陥る。そんな力を気術に目覚めたすぐの10歳の子どもが使えばどうなるかはわかるな?」


たぶん、最悪の場合は…死…。良くても何かしらの障害が残っちゃう。

というか、さっき体験したって発花くんもう覚醒したの!?


「そして、2つ目は“技術面の問題”だ。気力の扱い方、知識…様々な点で当時は理解出来ないために脳が混乱を避けるためだと言われている。

ここから先はある人物から話を聞いてからじゃないと分からないことが多い、支部長」


見ると支部長はインカムに手を当てて話していた。


「どうだ?北潟」


〈本日来るのは無理だそうです、通話なら大丈夫だと…〉


「…わかった、繋げ」


そういうと支部長はインカムとスピーカーを繋いだ。ただその顔は眉にシワをよせかなり嫌そう…

いったい何が始まるの?と思ったところでスピーカーから声が響く。


「ハァ〜イ♡レイコちゃん?セリカちゃんだよぉ〜?」


その声が聞こえた瞬間、机の上にあった花瓶が突如床に叩きつけられ粉々に割れた…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る