花の宴

「わぁ…、最高ですね!」

桜が見頃を迎え、結月たちは早速花見の為に時ノ宮の近くにある山で花の宴を催した。

といっても、儀式や兄弟の祝言、さらにことなどで、実現はそれから7年経った日のことだった。

そこには、時ノ宮と縁のある貴族がたくさんいて、和やかに談笑していた。

「人、沢山ですね…、これが宴というものですか…」

「結月が即位した暁には、これ以上の人を招くことになるぞ」

「朝陽様の言う通りですよ、結月。これくらいには慣れておかないと…」

親が揃って言い、結月は顔をしかめた。すると、

「真昼姉ぇー!!」

という声が聞こえた。後ろを見ると、"誰か"が真昼御前に抱きついていた。

沙夜さよ?久しいわねー!元気にしていた?」

沙夜と呼ばれたその人は、真昼御前と瓜二つだった。結月は、物問い気な顔を朝陽天皇に向けた。それに気づいたのか、彼は話し出した。

「沙夜御前は、真昼の妹に当たる。たしか、沙夜御前と俺の弟との間に、お前と一つ違いの子がいたはずだ。探してみるか?」

「見てみたいです!」

朝陽天皇は、ものの五分ほどで子どもを連れてきた。

「男子だったな。にしても、顔立ちが似てるなぁ!」

「どうしてですか?血の繋がりがあるのですか?」

「結月がそう言うのも無理はない。彼は、結月の従兄妹に当たる。お前と一つ違いだ」

どうやら、彼も初めて知ったらしく、目がま開いていた。

結月は、そろりそろりと近づき、彼を上から下までじーっと眺めた。

「ええっと…。そなた、名を何と申すのですか?」

結月が聞くと、彼はお辞儀をした。

「私は、光と申します。月夜ノ姫様のことは父からよく聞いております」

「月夜ノ姫?あぁ、本名で呼ばれないってこういうことなのですね。私はそのように呼ばれているのですか?」

「はい。月夜にお生まれになったということから。面白いお方ということも聞いております…」

「本当に?どこからそんな噂が…。ま、まさかとと様!?」

結月の目は、「違いますよね?もしそうだったら許しませんよ?」と言いたげな圧力が滲み出ていた。朝陽天皇は、それに気づかずにしれっと言ってのけた。

「あたり!ほら、兄弟だからさ。弟

は"今宵"って言われているけれど。今宵は面白い話が好きでね。最近結月も誰かに似て言い違いが増えてきたから」

結月の憤慨したような目に気づかず、どんどん話を進めて行く。光はそれに気づき、そろりそろりと後ずさりを始めた。

「…とと様〜?」

顔こそ笑ってはいたものの、目は凍てつくほど冷たく笑っていなかった。

いや、顔も獲物を見つけた肉食獣のような冷酷ささえ感じられる笑みだ。

「なんだ…、あっ…」

朝陽天皇もようやく気づいた。


が、時すでに遅し。

しばらくの間、結月から罵声を浴びせられることになった。

「噂通り、面白いお方ですね、月夜ノ姫様は!時々、宮中に遊びに行ってもっと話を聞きたいです!時ノ宮様、よろしいですか?」

光が朝陽天皇を見た。朝陽天皇は、結月の残忍な笑み–次なにか噂を吹き込んだら容赦しないわよ、と言いたげな笑みだ–を見て、即座に許可を出した。


ただでさえ賑やかな宮中に、さらに新たな人が加わることになった。


後で侍女に聞いた話だが、花見なんてそっちのけにさせ、自分の噂を勝手に流した朝陽天皇を、結月は向こう1週間パシリにしたという…。

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