酔いどれの女

 律子はOL。


 普通は「オフィス・レディ」の略だが、彼女の場合は「オールド・レディ」の略だと言われている。


 昔流に言えば、「お局様」である。


 しかし、その言葉は当たっていない。


 確かに律子は勤務歴は長いが、お局様というにはあまりにも情けない仕事ぶりだからだ。


 何故クビにされないのか、周囲は不思議がっている。


 本人も不思議に思っているらしく、


「どうして私、クビにされないのかしら?」


と言っていたという。


 その謎は、忘年会で解ける事になる。




 十二月も下旬になり、律子の会社も各課ごとに忘年会が開かれた。


 律子の所属する庶務課も、ある週の金曜日、会社の合同忘年会に参加した。


 律子は他の女子社員のように気が利く訳でもなく、お酌にも回らないようなボケナスである。


 しかし、不思議な事に誰も彼女にその事を指摘する者がいない。


 女子社員は、非常に不満そうだが、課長も部長も何も言わないので、律子に何か言う事もできない。


 律子は律子で、全く女子社員達の殺気のこもった視線を感じていない。


 それどころか、ほろ酔い気分でヘラヘラ笑い出す始末だ。


「お、神田君、そろそろかね?」


 部長が声をかけた。すると律子はスックと立ち上がり、


「神田律子、踊りまーす」


と言うと、ピョンと座の中央に飛び出し、ブレイクダンスを踊り始めた。


 かなり激しい。首の骨が折れるのではないかというくらいの回転速度としなり方だ。


「おおお」


 女子社員達は、律子が踊り出す頃には帰ってしまっているので、彼女の「雄姿」を見た事がないのである。


「はい!」


 律子はサッとポーズを決めた。部長と課長は大喜びだ。


 律子がクビにされない理由。彼女の「ブレイクダンス」を社長が大好きなのだ。


 今日は見に来られなかったが、時間がある時は、接待をキャンセルしてまで来るほどである。


 そんな理由で律子はクビにされない。


 しかし、それは表向きだ。


 本当は彼女は裏の仕事をしているのである。


 特命OL「妖怪ヘベレケン」なのだ。




 という事はない。


 妖怪「ヘベレケン」なのは事実だが。

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