某ネトフリ始め、配信映像サービスが一般化して久しい現代で、わざわざレンタルDVDソフトを人生の迷い人に授けにくる奇妙で愛嬌があって、おまけに滅茶苦茶喧嘩が強い謎の少女、ツタ子さんの活躍が楽しいです。
今回の3作目はどこか影を抱える青年が、ツタ子に巻き込まれてラーメンやら猫さんやらのほのぼの日常場面から、内に秘めてた闇に向き合わさるほんの少しシビア、けれど読後感が爽やかで気負いせず読める、素晴らしい作品になっていました。肝である何のDVDがツタ子さんから届けられるかは、読んでからのお楽しみ。
話事に(恐らく設定披露である幕間除き。これもこれで先が気になりますが ツタ子さんを軸に主人公も話のタッチもガラリと変わるので、今回の話をきっかけに前のお話を読んでみるのもオススメです。気長に次回をお待ちしてます。
上野公園でパンダが死んだ日、主人公は「TSUTAYAの最後の娘」と出会う。貞子を思わせる蔦屋ツタ子、彼女の使命は「その夜、その映画をもっとも必要とする人にDVDを届けること」——。
この作品、とても魅力的な始まり方をします。文章も上手です。
その導入部、作品のキャッチコピー、紹介文などから自然と想像されるストーリー(映画の紹介を兼ねたハートウォーミングもの)があると思うんですが……この作品、一筋縄ではいきません。
展開が予想できない、というのとも違って、むしろ「次は当然、こういう台詞が出てくるだろう、こういうことが起こるだろう」と予想させるベタな流れがつくられています。その上で、予想とは全然違う台詞がポンと出てきたり、「え?」と思うようなことが起こったり。そのギャップが絶妙で、途中からは笑いっぱなしでした。
ハートウォーミングものかと思ったらホラーで、ホラーかと思ったらコメディで、コメディかと思ったらシュールで……そのどれでもないし、どれでもある、という感じです。
ともかく読んでみてください。魅力の虜になるか「何だこれは……」と困惑するか、どちらかだと思います。