第8話

「へー。プリザーブドフラワーの講師で、スイーツマニアか。中身は完全に乙女だね。」


「でしょ。見た目とのギャップがありすぎて、びっくりしちゃった。」


私と美智子は合コンが開催される場所へ話ながら向かっていた。


「でも、すみれにぴったりなんじゃない?ケーキ屋の娘にして、スイーツ作り苦手で、食べる専門でしょ?スイーツたくさん作ってもらえるよ。」


美智子がニヤニヤしながら私を見る。


「だ、だれがあんな意地悪なヤツ。私は、お兄さんの方が好みかも。優しくて、かっこよくて…。」


「ふーん。お兄さんもいるんだ。私も見てみたいわ。あっ今日はここで合コンだよ。」


美智子がホテルの前で立ち止まった。


「え?居酒屋じゃないの?ホテルとかどんなんよ。そんなにお金持ってきてないんだけど…。」


私は焦って、お財布の中身を確かめる。


「大丈夫。大丈夫。あっちの奢りらしいから。今回はいいとこのおぼっちゃまばっかり来るらしいよ。」


「えぇ。聞いてないし。私なんか浮くんじゃない?」


自分の安物のワンピース姿を見下ろして心配になる。


「大丈夫。大丈夫。私も含めて女子はみんな一般ピープルだから。」


美智子は私の背中を押しながらホテルへ入って行った。ホテルの中にあるレストランへ行くと、既にメンバーは集まっていて、私達が最後だった。


「遅くなりましたー。美智子とすみれです。」


美智子が私を引っ張りながら空いてる席に着く。


「よろしくー。」


「こんばんはー。」


向かいに座る男性4人がこちらを見て、口々に挨拶する。みんな高価そうな服や時計を身につけ、いかにもお金持ちそうなオーラを出していた。美智子は早速、お向かいの男性にアプローチし、楽しそうにおしゃべりをしていた。私は、とりあえず目の前にある食事に集中することにした。


「すみれちゃんだっけ?お花の名前なんて素敵だね。」


向かいに座る男性に急に話しかけられる。


「あ、ありがとうございます。えっとあなたは…。」


「僕は聖と言います。よろしくね。グラス空いてるけど、お酒でもどう?」


聖さんは、メニューを開いて渡してくれる。


「ありがとうございます。じゃあ、ピーチフィズにします。」


店員さんを呼ぼうとすると、代わりに聖さんが声をかけてオーダーしてくれた。


「ありがとうございます。」


「君は、他の子達みたいに必死じゃないみたいだね。」


聖さんは美智子や他の女の子を見て言った。


「え?」


「いや、僕も今日は人数合わせで無理やり連れて来られて、あんまり乗り気じゃないんだよ。君もそんな風に見えたから。」


「まぁ、本当のこと言うと、私もそんな感じなんです。今は他に夢中になれることが見つかって…。」


「やっぱり。そうだと思った。」


聖さんは嬉しそうに笑うと、自分のグラスを私のグラスにコツンと当てた。


「2人の出逢いに乾杯。」


聖さんは悪戯っぽく私に笑いかける。透き通った薄い茶色の瞳に見つめられ、胸がドキドキと音を立てる。


「それで?すみれさんは何に夢中になってるの?」


「えーっと。最近お花の教室に通い始めたんです。」


「へぇー。奇遇だな。僕の家もフラワーショップ関連の会社を経営してるんだよ。どこのお店で教室通ってるの?」


「えっと…。My Little Gardenって名前の店です。ご存知ですか?」


「ご存知も何も、フラワー業界じゃかなり有名なフラワーショップだよ。腕前もかなりあるけど、なによりイケメンフローリストの兄弟がいるショップってね。」


聖さんが驚いたように言った。


「フローリスト?」


「フローリストとは、フラワーショップで働く人や、フラワーアレンジメントをする人のことだよ。それに、そんな人達に習えるなんて君はラッキーだね。羨ましいよ。これも何かの縁だし、連絡先交換しない?」


聖さんは携帯をポケットからさっと取り出す。


「えっと…。じゃあ。」


断る理由も思いつかず、とりあえず連絡先を交換することにした。聖さんの連絡先が携帯に入っているか確認していると、葵さんから電話が掛かってきた。


「も、もしもし?」


「お前今どこにいる?ちょっと手伝いにきて欲しいんだが。」


「えっと、駅前のホテルに来てます。」


「それは都合が良い。俺たちもちょうどそのホテルのロビーで花を納品してるとこなんだ。ロビーに降りて来れるか?」


「は、はい。ただ今。」


私は電話を切ると慌てて美智子に耳打ちする。


「ごめん。私ちょっと急用で抜けるわ。」


「え?すみれ?」


「聖さんすみません。私急用ができたので。」


驚いているみんなを残して私は早足でロビーに向かった。合コンで飲んでいるより、今はお花に携わる方が楽しかった。ロビーに降りて行くと、大きな花瓶を2人かがりで持ち上げて運んでいる葵さんと柊さんの姿があった。


「お待たせしました。私どうすれば?」


「おう。悪いな。思ったより花瓶が重くてな、車に段ボールが置いてあるから持って来て欲しいんだが、車わかるか?」


「お店の前で見たことがあるので、多分大丈夫です。」


葵さんから車の鍵を受け取ると、駐車場へと小走りで向かう。見覚えのあるお店の車を見つけると、中から段ボールを取り出すし、2人の待つロビーへ慌てて向かった。


「助かったよ。」


ちょうど花瓶を設置し終わった2人がこちらを振り返った。


「ありがとう。すみれちゃん。ホテルだからあまり作業に時間がかけれなくてね。短時間で仕上げないと行けないんだ。」


2人は段ボールから資材を取り出すと、手早く花瓶に生けてある花に手を加え始めた。私はしばらく2人の作業に魅入っていた。ものの数分で作業は終わり、真っ赤なローズや緑のローズがふんだんに使われたオーナメントが完成した。


「素敵…。」


「これはみんなプリザーブドフラワーなんだ。」


「これ全部?すごい!」


思わずオーナメントに近づいて確認する。


「まぁな。2人かがりで1週間以上かかったよ。」


葵さんと柊さんは達成感溢れる表情でオーナメントを見つめていた。


「クリスマスにぴったりです。本当に素敵。あの写真撮ってもいいですか?」


「別に構わないが、お前いつも写真ばっか撮ってるな。そんなに撮ってどうするんだよ?」


葵さんは呆れた顔をして写真をいろんな角度から写真を撮っている私に呆れたように言った。


「SNSにあげるんです。2人はやってないんですか?」


「俺たちはやってないかな。そういうと疎くてね。」


柊さんと葵さんは首を横に振った。


「写真載せたら、周りの奴が何か言ってくれるんだろうが、そういうのって、周りの意見より、自分がどう思うかのが大事なんじゃないか?」


「そうですかね…。」


葵さんの言葉に納得しつつも、写真を撮り続ける。急に吐き気が襲って来た。私は口を抑えて慌ててトイレへと走った。寸前のところでなんとか間に合い大惨事には至らずに済んだ。


「すみませんでした。」


私は2人の元にふらふらと戻ってきた。


「すみれちゃん真っ青だけど、大丈夫?」


柊さんが肩を支えてくれる。


「飲んだあとに走り回ったら酔いが回ったみたいです…。」


消えそうな声でなんとか状況を説明する。


「家まで送ってやるよ。元はと言えば、俺らが呼び出したんだしな。」


「歩けそう?」


柊さんが心配そうにに私の顔を覗き込む。


「なんとか…。」


私はふらふらと歩き出す。


「ったくしょうがねーな。」


葵さんがしゃがんで背中を向ける。


「え?」


「ほら、ぼーっとすんな。おぶってやるから。」


「いいですから…。私子供じゃないし…。」


「まぁいいから。いいから。」


柊さんが優しく私の背中を押して葵さんの背中に誘導する。フワッと体が持ち上げられる。私は急に、意識が朦朧としてきて、葵さんの背中に身を任せる。暖かくて大きな背中に持たれていると、私の瞼はゆっくりと閉じていった。











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