第9話 片桐和彦の場合

ったく。何処の馬鹿だよ。

大量に、ヒト型アンドロイドを送り込んで俺たち殺そうとした奴は。しかも、このアンドロイド、数年前のヒト型ロボットで、かなりの不良品じゃないか。


ヒト型アンドロイドの大群は、やがて仲間うちで勝手に喧嘩を始め出すようになった。


実は、これを開発したの俺だ。こいつらの動きを簡単に止める事が出来たのは、一台のパソコンだけで行った。


俺のノートパソコンには、俺が開発したヒト型アンドロイドだけは動きを制止させる機能がついていたのだ。


俺が開発したヒト型アンドロイドのプログラムには、すべて同じ暗号が埋め込まれている。これを解読できるのが、この世界で俺が所有しているこのパソコン一台だけだ。また、この暗号はかなり難解で俺しか解けないようになっている。


俺の正体。ホームレスを装って、人々の警戒心を緩めては、この地の安全を守るFBIのメンバーの1人。カズ・カタギリだ。


俺の仲間達は、世界各地に潜んでいる。勿論、この事は小春や小夏にすら教えていなかった。FBIであるという事実は、どんな親族にも正体を教えてはいけないという暗黙のルールがあったからだ。


「踊り」を教えるという形を装いながら、実はこの二人には小さな頃から、万が一の為に護身術を教え込んでいたのだ。もしかすると、俺のせいで事件に巻き込まれてしまう可能性だってなきにしもあらずだ。


この世は、どんどんアンドロイド世界になる。そして、権力者達が金で武力を手に入れ、自分達が一番になるために数々の争いを起こす。俺は、そんな世の中を許さない。


俺が開発したロボット技術が、まさか信用していた親友の手に渡り権力者の為に悪用されたり、戦争に使われる事になるなんて。


俺自身に対しても、許せない事実だった。俺はただ、ロボット技術の開発が楽しくて楽しくて仕方ないだけだった。


無我夢中になってプログラムを組み立てているうちに、最先端のアンドロイド技術を、開発できるようになった。技術の開発作業は、楽しくて仕方なかったが思い起こせばその技術をこれから先何に使われるのかなど考えもしなかったのが、俺の最大の過ちだったのではないかと思う。


俺は、すっかり悪友に魂を抜かれた三谷がまた元のアイツに戻ってくれることを、こんな世の中になっても、まだ信じていたんだ。


「信じるって事はさ、つまりいつか裏切られるって事なんだよ」


お前は、俺と最後に会った時。嘲笑うかのように言ったな。お前の冷めたような目が不気味で仕方なかったのを、今でも覚えている。


昔は、アイツと共に汗水流して青春してきた仲間だった。


いつもアイツと雑魚寝しては、明日もまた一緒に遊ぼうぜって感じで、3日位アイツん家に泊まったりしてた頃もあったっけ。


いつも、俺。隣でそろそろ寝ようとしてる雅之を邪魔して、寝かせないようイタズラするのが好きだった。


「おめぇ、将来夢ってある?おめぇ。将来、何になりたいの?俺さ、とりあえずロボット作りたいんだよね。」


って言ったら、アイツは目をキラキラ輝かせて


「なに?なに?ロボット?いいなぁ。俺もやってみたい!」


って、喜んで俺の話聞いてたな。


それから、俺たち。仕事も、一緒だったな。共に、ロボットの開発部門に仲良く就職したっけ。


まあ、お前は正社員で。俺は、契約社員だったけどさ。俺は契約社員だったからこそ、ガムシャラに仕事して、正社員を目指してた。お前は、エリートコースみたいな部屋でぬくぬくと仕事してて。お前は俺がいつも羨ましいっていってたけど、俺からすればお前の存在は羨ましかった。


俺は条件反射で愛想を振りまいては疲れてたけど、お前はいつもポーカーフェイスでさ。気に入った人にしか笑顔にならないっていう、すんごいワガママで好き嫌いのハッキリした奴だったよな。


「お前はいいよな。いろんな人にいい顔しなくても生きていけるんだからさ」と俺が言うと「なんで、色んな人にいい顔しないといけないの?」と真顔で答えてきたんだよな。素直というか、真っ直ぐというか・・・。


俺が「俺の場合は寂しそうな顔してる人がいたら声かけなきゃと思っちゃうし、落ち込んでいる人がいれば大して好きじゃなくても励ましちゃう。面倒くさいのにさ。お前は、誰がなんだろうが声かけないからストレス堪んないだろうなぁって」と言うと


「いや、本当は声かけたいと思うこともあるけど。俺が声かけた所で、どうにもならない事だってあるよね。例えば落ち込んでいる人だって、俺が声かけて元気になれるような気もしないとかさ。声かける前からわかるじゃん。そういう人に関わると、俺も向こうも面倒くさいと思うし。もともと人とそんなに話したいと思わないから、別に。」と涼しい顔して答えてた。


なのに、好きな人に会うとすぐにわかりやすいオドオドしたリアクションするから、すぐにわかった。多分、アイツは興味のあるものには興味を示すけど興味を示さない人には完全に無関心なんだよなぁ。俺からすれば、つい八方美人になってしまうから羨ましい限りだった。


あいつとは、ああでもないこうでもないと言いながらずっとこんな日が続くんだろうなって。ずっと、そう思ってた。


なぁ、雅之。人との出会いは、わからないことだらけだな。何が悲しくて。おれ、おめぇと歪み合わなきゃならねぇんだよ。


俺は、パソコン操作で全てのヒト型アンドロイドの動きを廃止させた。


「ここは危険です。逃げて下さい。」といって、周囲にいるホームレス達を逃がした。


数年前の地震で、俺は元チームメイトの小池の娘を救い出した。


俺の家から、目と鼻の先に住んでいたので気になって助けにいったのだ。既に、小池は柱の下敷きとなり助けることも困難だった。


「奥の部屋に、娘がいる・・。

俺のことはいいから、頼む・・」


小池との約束だった。娘の本当の名前は、小池瑠奈。


ハンサムな小池にソックリの、目鼻立ちのシュッとした美少女だった。


しかし、実の娘の小夏を片手に抱えて逃げていた俺は、瑠奈の手を取り一目散にこの地から逃げた。


ごめん。小池ごめん。おめぇの事助けられなくてごめん。でも、ぜってぇ。この子の事は、何があっても守るから。


瑠奈は、三歳になっており。既に物心がついていたため、小夏と本当の姉妹じゃないことを知っていた。


それでも、実の娘と同じように分け隔てなく育てたかった俺は、瑠奈に小春と名前をつけた。


小春は、時々反抗したり小さなイタズラをしては俺の気を引こうとしたが、俺は「そんなことは、やめなさい」と、やんわり言うことしか出来なかった。


結局、心の何処かで気を使ってしまい。小夏のように、言いたいことを思い切って言えず「美人だろ?」「天才だろ?」と言って、甘やかしてしまった。


小春が、女優になる為にキャバクラで偉いさんを捕まえると言い出した時は、何度も止めたがそれでも本気で止める事が出来なかった。


小春には、きっとこの思いが伝わっていたのかもしれない。何処かで、俺に本気で怒られる事がなくてずっとさみしかったのかもしれない。


ごめん。

ごめんよ。小春。いや、瑠奈。


俺は、ヒト型殺人アンドロイドの動きを全部廃止し、周囲のホームレス、そして寝ていた小春や小夏を起こしてその場を逃がした。


小春は、「なんで?どうしてなの?」と言い続けた。「いいから、早く!」と、俺は急かした。


やがて、全員逃がして「ふう」とため息をついた頃。


後ろからドォンと鈍い音が鳴り響いた。


俺の体と一粒の弾が貫通し、血飛沫が辺り一面に飛び散った。


残る力を振り絞って、後ろを振り返る。


「ま・・雅之・・。」


後ろには、俺の親友。

三谷雅之がピストルを持って立っていた。


雅之の乾いた瞳に、俺はボンヤリ写っているだろうか。


「久しぶりだな・・。まさか、こんな形で会うなんてな。悪いが、ポクポン教からの指令なんだ。

此処に住む住民を、全て抹殺せよとの事だ。


俺がお前を撃った理由?

それは、ポクポン教からの指令があったからだ。俺たちポクポン教徒は、全てポクポン教の指令の通りに動いている。


ポクポン教の教えを忠実に守れば、俺は人生ずっと保証される。幸せになれるのだ。


お前は、あんなに俺がポクポン教に誘ったのに


「悪魔に魂売る位なら、いっそホームレスのままでいい」と言って逃げたよな。


だから、お前は。幸せになれずに死を選んだんだよ。俺に撃ち殺されなければならない運命を、自ら選んでしまったんだよ・・。


そもそも。

ホームレスなんて、嘘じゃないか。ホームレスを装って身を隠すとは、なかなか大胆な事を考えるもんだ。実に、お前らしいよ。


お前は、FBIの主要幹部メンバーの1人。

カズ・カタギリ。


俺が、知らないと思ったか?


お前に教えて貰わなくても、全てお調べの通りだ。


しかし、FBIとはいえ・・・。人の命なんて脆いもんだな。こうして俺の手一つで簡単に消えてしまうのだからな・・・。」


僅かな意識を頼りに、雅之の顔を覗き込む。


擦れた台詞を言いながらも、声は掠れ。

目には涙が浮かんでいた。


なぁ。おめぇはよ。

本当に、こうなる事を望んでいたのか?


誰かからの、示唆通りに動いてるだけじゃないのか?


こんな姿になっても。


俺は、まだお前と汗水流して青春してた頃が走馬灯みたいに頭過ってるんだ。


まだ、仲間だと。親友だと。

信じたいんだ。馬鹿だろうか?なぁ?


やがて、少しずつ力を失った俺は。


そのまま意識を失って、そして屍となった。

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