第8話 谷口明子の場合

「谷口明子の場合」


谷口硝子繊維の御令嬢として、全ての人生の選択肢においてバックアップのあった私の人生は、美味しいようで不味かった。


子供の頃から、私は父の財産と権力を元に欲しいものは何でも手に入れる事が出来た。


父の友人の三谷コーポレーションの代表取締役社長の三谷雅之は、父にかなり心酔していた。


父は、昔あるダンスチームに入っており、そこで三谷雅之と知り合った。


当時、ネットワークビジネスにハマっていた父は三谷を洗脳させて勧誘する事に成功した。


三谷の事は、同じチームの片桐和彦という男が必死で止めたそうだが聞かなかったそうだ。三谷と片桐は元々親友同士だったらしい。


女同士の友情も脆いものだが、男同士の友情も儚いものだ。私の父が現れた位で、あっさり崩れる程度の親友といった位置づけだったみたいだから、さほど大した親友でもなかったのでしょう。


段々、父と三谷はチーム内で浮いた存在になった。チームメイトに、商品を売りさばこうとしては、注意をされるようになった。


やがて、父も三谷も少しずつ練習に行かなくなり、

父と三谷は、ネットワークビジネスにのめり込むようになる。


父は、三谷を自分のビジネスに入れる為に、メンバーの悪口を有ること無いこと吹き込んだ。勿論、全ては父が作り上げたデタラメだった。全ては三谷を洗脳させて自分の手中に置く為の罠だったのだ。


やがて、三谷の精神は私の父によって崩壊され、少しずつ周りを恨むようになっていった。特に親友の片桐においてはかなり酷い嘘を吹聴したので、恨みさえもったそうだ。


しかし、本当の親友なら父の言うことなんか信じずに親友の片桐を信じられたはず。そこで、父を信じてしまったという事はそこまで三谷も片桐と信頼関係を築いていなかったのだと思う。


父は、この時同時に「ポクポン教」という宗教を作り、洗脳学をビジネスに生かし多大な成功を収めた。


谷口硝子繊維会社は、本当は違う人間が経営者になる筈だったのだが、莫大なお布施金を片手に乗っ取る事に成功した。そして、父の指示や資金援助により三谷は一代で成功を収める事が出来たのだ。


その為、三谷は父に益々頭が上がらなかった。


やがて三谷がたまたま我が家に、家族の写真を見せる機会があった。


そこには、丁度私と年齢も同じくらいで三谷とハーフのように美しい色白の美少年がスッとした顔で佇んでいた。あまりの気品の高さと美しさに、息を呑むほどだった。


三谷のまだ五歳の息子の写真を見て一目惚れした私は、「パパ。わたし、この人とけっこんしたいの。」と言った。すると、父が三谷に頼み込んで彼と許嫁になる事が出来た。私は、当時から願えば何でも手に入ることを知っていた。私が3歳の頃は、「島がほしい」とおねだりすると、一つの島をお誕生日に丸ごと父が買ってくれた程リッチだったからだ。


その直後、激しい夫婦喧嘩があり三谷の嫁は息子を連れて家を出ようとしたそうだ。


どうも、愛する息子を勝手に私の許嫁にしたことに激しく激怒したそうだ。


しかし、父の陰謀により三谷の嫁は誘拐されて何処か見知らぬ国へと売り飛ばしたそうだ。


父の考えは「邪魔者は消す」という理論だった。


そして。三谷は、妻よりも父を選んだ。


私が「もっと可愛くなりたい。」「痩せたい」と言えば、幼き頃から沢山整形させてくれた。


今や、整形依存症になった私。


体の何処かにメスや注射を打たなければ、不安になる。


やがて、私は整形だけでは飽き足らず万引きまでも繰り返すようになった。


警察に補導されても、正体がわかれば「ああ、あそこのお嬢さんか」と、逃がして貰えた。


やがて、私は・・・。駄目元で、父に女優になりたいと言った。


世の中は、人件費削減の為にアンドロイド女優だらけだというのに私は父の権力で簡単に女優になることが出来た。


でも、世の中の人々は皆私のアンチだらけ。


ネットでは「親の七光り女」「整形依存症で気持ち悪い化け物。でてくんな」と、揶揄された。


私なんて。


こんなブスでエゴの塊でどうしようもなく醜いのに。


ただ金持ちというだけで、どうして何やっても許されるの?


悪いことしても、誰も止めないの?


恋とか、愛とかさえも。

なんかもう。めんどくさくて。


「許嫁います」って言いながら、

ホストクラブで連日遊ぶのが楽しかった。


ドンペリ沢山注文しながら、札束でペチペチイケメンの股間を叩くのが快感だった。


低俗な事すれば、週刊誌がざわつく。


それでも、父は私の週刊誌記事を事前に金で買い取る程のクソ金持ちだった。


何をやっても。

私を止める人間は、この世にいなかったのだ。


しかし、ホストの目的が露骨に金だった事がわかればわかるほど、虚しさだけが込み上げる。


やがてメンズBARで男を買ったり、


クラブで大金巻いたりクスリ打ったりして、連日腐る程遊んだ。


なんでもいいから。とにかく、誰かに愛されたかったし叱られたかった。だけど、誰も私を心の底から愛する事もしなかったし叱る事もしなかった。


そんな私に、大嫌いな女が現れた。

「小春」という名の女優だった。


無名の名もなき女優志願者で、

普段はキャバクラ勤務で枕営業クソビッチ女だが、そこらへんの誰よりも、飛び抜けて綺麗だった。


顔を弄る事では手に入れる事のない輝きと、既にキラキラしたオーラを兼ね備えていた。


私にとって、こいつの存在自体が邪魔だった。


なんとしても。潰さねば。私は、小春に屑仕事を与えるように事務所に示唆した。


ヌードの仕事や、スカトロAVの仕事から売れない芸人のカキタレ仕事まで。


とにかく、嫌がる仕事を押し付けて与え続けるように指示した。


人気の芽が生える前に、才能なんて潰してくれるわ。


私が、此処で人間界のナンバーワン女優として君臨するの。


そして、三谷のイケメン金持ち息子と何の苦労もなく結婚する。


人生の勝ち組になる。


これが、私の人生の全てであり。夢。


誰にも邪魔なんてさせないわ。


なろうものなら、全力で潰してやる。



「明子様。

大変です!


フィアンセの三谷年也様が、ホームレスの家に通いつめております。


心配に思い、極秘に調査した結果。


片桐和彦というホームレスと、

二人の姉妹が住んでおります。


姉は、小春という女優志願者のキャバクラ嬢。かなりの美人です。


妹は、小夏というスーパーで惣菜詰めのバイトしている・・・


一見地味だけど、よく見るとなかなかの美人で私の結構タイプ・・あっ、御免なさい!


私としたことが!


業務に、私情を挟んでしまいました!


さて、この姉妹ですが。


調べる所によると、どうも本当の姉妹ではありません。


なんかもうね、怪しいと思えば戸籍謄本から調べまくりましたよ。


どうも、妹の小夏は実の片桐和彦の娘です。


姉の小春は、片桐和彦の友人の娘です。


数年前の大震災の時に、彼の友人の家に行って助けに行ったのでしょう。


どうも、二人を実の姉妹として育てているそうですが、


周囲の口コミ情報によると

片桐和彦は実の娘には厳しく、

姉には「美人だ」だの「天才だ」だの依怙贔屓して育ててしまったようです。


二人の姉妹を、分け隔てなく育てなければという指名に追われる反面、どうしても小春に気を使って育ててしまう・・。


なかなか子育てとは、難しいものです・・。


しかし、まさか年也様が。


このホームレス姉妹のどちらかに入れ込んでいるのではと想像したまでです・・・。」


私の知らぬ所で、いつも影ながら私を心配して取り調べしてくれる、専属刑事の吉川健二。


しかし、いつもタイプの女を見つけると私情を挟むのが玉に瑕だ。



「なんですって!

小春って、ホームレス育ちなの?


どうりで、あんなに枕営業に励むクソビッチな訳ね。


どんなにあがいても、所詮この世界はね、実力だけじゃ這い上がれないという事を、そろそろわからせないといけないわね。


私、あの女。

昔から大嫌いなのよ。


育ちも悪い癖に、野心抱えて生きてる女なんて。身の程知らずにも、程があるわ!


ただの、諦めの悪い女って感じで意地汚いドブみたいな女よ。


そんな女の所に、何故。

私の年也さんが・・。


邪魔者は、全員抹殺よ!


その河川敷に住むホームレス、

全員抹殺して頂戴!


そして、その地には何事もなかったかのように、ポクポン教の支部を作るのです。


そこのホームレス達が、悪さするという事を適当にネットあたりで噂として拡散する。


それを、ポクポン教が退治した事にでもすれば、


我々ポクポン教は更なるイメージアップに繋がるのです!


さあ、早く殺人型アンドロイド送り込んで頂戴!


年也様の心を奪う人間は、どんなことがあっても許さないわ!」


冗談じゃない。


なぜ、あんなホームレス女達に

私のフィアンセが入れ込まないといけない訳?


きっと、ホームレス育ちで卑しいのね。「身分相応」って言葉きっと知らないのよ。


イケメン御曹司の年也さんに、ホームレスの分際で手を出そうだなんて。

烏滸がましいにも、程があるわ!


私はね。


こうして、幼き頃から全面整形を繰り返して、今や憧れのバービー人形ソックリなんだから。


憧れの顔と体型になるために、

目頭切開、顎の骨を削り、鼻と額にシリコン、胸に生理食塩水、肋骨を一本抜く・・


そして、父の全面バックアップで芸能界に入り、


ネット上では「親の七光り以外魅力なし」「整形サイヤ人」とかボロカスに書かれても、


それでも、「女優」という肩書きに固執した。


幼き頃から、写真見ただけで一目惚れしたイケメン御曹司の年也さんの事は、

ずっと今でも刑事雇ってストーキングしてる。


隠し撮り写真で、写真集を作ってはいつもニヤニヤしながら眺めてる。


年也さんの写真みながら、

一体どれだけ一人で股間を弄った事だろうか。


「これが、数年後は本人の手で・・」

と想像すると、興奮しすぎて間違えて失禁を繰り返していた程だ。


私の想像を遥かに超える、超絶イケメンへと育っている年也さん・・。


私、ルックスも人気も全て完成体になり、

誰からも羨望の眼差しを受ける存在になって、初めて彼に会いたいと思ってるの。


そして、超絶イケメン御曹司との電撃結婚。


これで、国民中の羨望は全て私だけのもの。


ああ。

妄想するだけで、股間が濡れちゃう!


その為には。

どんな邪魔者も許さない。


全員、抹殺してくれるわ!


私は、吉川健二に「河川敷のホームレス全員抹殺せよ」と、命令した。


吉川健二は、早速河川敷に殺人型アンドロイドを大量に送り込んだのであった。



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