喋るホウキと魔法のレース

 ――あれから、半年が経った。


「ねぇ、箒さん! あれって何かな!?」


 青い空の中、大きな翼で空を掴む生き物の群れを指さし、わたしは尋ねた。

『小型のワイバーンの群れだな。……箒の素材としては優良だが』

「狩らないよ!? ……でも、なんか速そうじゃないです?」

 前に見たドラゴンほどじゃないにしろ、箒に引けを取らない速さに見える。

『おい、まさかステラ……』

「ちょっと勝負してみたいですっ!」

 わたしは箒の進路を変えて、ワイバーンの群れへと突撃してみる。

『おい待て! 今日はアンバーの街まで向かう予定だろうが!』

「えー、だってワイバーンとレース……」

『レース狂もいい加減にしろキサマは!』

 箒さんに怒鳴られてしまった。

 流石にマズかっただろうか。まぁ、自衛手段が閃光弾くらいしかないもんなぁ。

「でも、目標の為には、色んな相手とレースしてみたいんです」

『分かってるが、限度はある。オレ様だって疲れる。……第一、レースならこれからやるだろうが』

 そうだった。っていうかわたしたちは、レースに参加する為にアンバーという街に向かっている最中だったのだ。


 王都でのレースが終わった後。

 勝利を手にしたわたしを、エスメラルダとクリスは全力で祝福してくれた。

 三人と箒さんで掴んだ勝利。その嬉しさで、疲れなんか一瞬で吹っ飛んで、わたしは夢でも見てるみたいな気持ちで……


 ……。でも、その時に感じちゃったんだ。


 ああ、わたしは空が好きだ、って。

 風を受けて飛ぶことが。放たれる魔法をかい潜ることが。誰かの背中を追い抜かすことが。追ってくる誰かに焦りながら、精一杯風を切って進むことが。

 居ても立ってもいられなくなっちゃうくらい、大好きになったんだ、って。


 だから、箒さんに聞いた。

 この気持ちを、どうしたらいい?

 空に感じた胸の高鳴りを、追いかけ続けるのはどうしたら良い? って。


 箒さんはすぐに答えたよ。


『答えは、空にあるはずだ』


 その時に、わたしの夢は決まった。


 世界最速の、箒レーサーになるって。


 わたしなんかには無謀かなって、弱気になることもあるけれど。

 一人じゃない。箒さんと一緒なら、何処までも飛べるって、思えるから。


「それじゃあ次のレースも、一番を目指そうねっ!」

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喋るホウキと魔法のレース  螺子巻ぐるり @nezimaki-zenmai

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