第5話


「一ノ瀬、健。明日だからな」


「悪い、俺は少し遅れる」


「一ノ瀬、何かあるのか?」


「呼び出されたんだ」


「誰に」


「分からない、手紙が、机の中に入ってた」


 いつの間にか、一ノ瀬の机の中に、ピンク色の折りたたまれた紙が置かれていた。

 そこには、今度の日曜、公園の木の下で待っているとのことだった。


「お、デートか?」


「そんなんじゃないよ。わからない」


「一ノ瀬、モテるからな。いいさ、終わってから来いよな」


「そんなんじゃないって」


 だけど、実際一ノ瀬の心は踊っていた。いつも蜷川達とばかりいっしょにいたから、女の子とはほとんど縁がなかったからだ。

 これがもし、告白だったらと、そんなことを考えていた。





 そして次の日の日曜日、蜷川と、健はじっちゃんの家に来ていた。その敷地は広く、手前の広い庭に、その物置庫はあった。

 そこには、木材があちらこちらに散乱し、羽の骨組みと思われるパーツが一部組みあがっているだけの状態だった。


「まだ、これだけ?」


 健のその意見はもっともだった。それは空を飛ぶことはおろか、飛行機と呼ぶにはまだほど遠いものだったからだ。


「これから組み上げるのさ。組みだしたら早いと思う。だけど、胴体部分がまだ決まって無くてな」


「健、羽の向きを変えたい、そっちを持ってくれないか」


 そして、2人が羽を持ち上げようとした時だった。一ノ瀬が遅れて到着したのだった。


「それで、どうだった?」


「告白、された」


 その言葉に、蜷川も健もきょとんとなった。当の一ノ瀬本人はもはや放心状態で、まるで目が泳いでいるようだった。


「マジか!やったじゃん」


 蜷川はやはり、一ノ瀬の背中をバンと叩くと、彼をたたえ、笑顔を向けてくる。当の一ノ瀬はいまだうわの空で、まるで何を考えているのかわからなかった。


「一ノ瀬、緊張しいだからな、彼女をちゃんとリードするんだぞ」


「うらやましいな、俺も彼女ほしいよ」


 健は物欲しそうな表情で、そう話すのだった。健にも蜷川にも彼女はその当時いなかった。つまりは一ノ瀬が彼女を持った第一号となるわけだ。


「それで、今度の日曜、デートするって約束しちゃった」


 そして、蜷川と、健は、一ノ瀬ののろけ話を聞かされることになる。


「だけど、おかしいんだ、彼女と一言も話したことないんだ」


「どこかで関わってるんじゃないのか?」


「分からない」


「あらいらっしゃい」


「ばっちゃん」


 そののろけ話の途中に現れたのは、蜷川のおばあさんだった。おばあさんは、お茶とお菓子を持ってきてくれ、皆に挨拶をした。


「どうしょうもない子だけど、よろしくね」


 蜷川は、うるさいという表情を作り、手を振るうけど、実際のところ、そんなに嫌そうな表情はしていなかった。


「また、この子の馬鹿に付き合って、ごめんなさいね」


「馬鹿ってなんだよ」


 そんな2人の姿を見ているとほんとに仲がいいんだなと思える。そして、一ノ瀬と健は笑顔で挨拶を返すのだった。


「仲がいいんだな」


「俺はおばあちゃん子だからな」


 結局その日は作業ははかどらず、一ノ瀬ののろけ話に花を咲かせるのだった。

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あの日見た夢 ユウ @yuu_x001

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