第4話


「ちょっとした計画があってな。今じっちゃんの家で進めてる」


「どんな?」


「じっちゃんの家、広い物置小屋見たなところがあってな。そこで進めてるんだ」


「何を進めてるの?」


「俺は空を飛びたい」


 一ノ瀬と健は愕然とした、それは誰もが夢見ること、だけど、成功する人なんてほとんどいないだろう。

 だけど、蜷川の目は本気だった。その目は輝き、まるで他の物が目に入らないかのように、まっすぐに見つめられていた。

 一ノ瀬は知っていた、蜷川が設計士を目指していたことを。


「材料はじっちゃんの家のあまりものの木材で作ってる」


「それ成功するのか?」


「今羽の部分を作ってたんだけど、風船見て思ったんだ。羽の揚力と風船と組み合わせたらどうだろうって思って」


「無理だな、風船は小さいし、何より、空気抵抗とか何かの関係でうまくいかないんじゃないか?」


「そうだよな……」


 蜷川が明らかに肩を落とすのが分かった。蜷川の中では、いいアイデアだと思っていたのかもしれない。

 もしかしたら、あの大空も近くなると。


「羽につけるのはわからないけど、前後につけるのはどうだろう」


「どうだろうな、なんとも言えないな……」


「こんな発想どうだ、風船に羽をつける」


「お前は窒素の中に入るのか?」


「そうだよな……」


「まぁなんだ、怪我しないようにな」


「なんだよ、お前らも手伝ってくれるんじゃないのか?だから話したんだ」


 その言葉に一ノ瀬と、健は顔を見合わせた。確かに面白そうではあった。もし空を飛ぶことができたら、この大空を自由に飛び回ることができたら。


「そうだな、一度やってみるのも面白いかもしれないな」


「決まりだな」


 3人は手をクロスさせ、一つの目標を誓い合った。





「蜷川、飛行機のほうはどうだ」


 一ノ瀬たちはその日も学校で、放課後ともなると、飛行機の話に没頭した。


「あまり思わしくないな。今度の日曜日、見てくれないか」


「あいつ気持ち悪いよね」


 そんな一ノ瀬たちの耳に、女子が何かヒソヒソと話しているのが耳に届く。

 その対処が誰かはすぐにわかった、それはクラスメイトの佐藤に向けられていた。

 佐藤は生まれつき手が不自由で、それが理由かわからないけど、話し方もどこかしらぎこちなかった。


 蜷川は佐藤の元に寄ると、佐藤の背中をバシっと叩く。


「佐藤、気にするな。お前がいい奴だってことは俺が一番よく知っている」


 蜷川は、女子にも聞こえる大声でそう話す。一ノ瀬は蜷川のそんな行動はまねできないと思い、同時にさすがだと思うのだった。


「佐藤、元気出せ!俺はお前の見方だ!」


 佐藤は少しきょとんとしていたけど、すぐに笑顔を取り戻し、口を開く。


「僕は平気だよ。ありがとう」


 そして、蜷川は佐藤と何か話すと、こちらへ戻ってくるのだった。


「俺は、佐藤をほっとけないんだ。一ノ瀬は知ってるだろ。俺の親父、パイロットしてるんだけど、怪我してな、いま家で療養してるって」


「あぁ、知ってる。だから蜷川も憧れるんだろ、あの空に」


 一ノ瀬は何気なく空を見上げた。


「だから、俺はやりたいことができないやつの気持ちがよくわかる」


「俺も同じ気持ちだ」


 そして、一ノ瀬と蜷川は笑顔を交わすのだった。

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