第3話 自己紹介の時間【女子編】
僕はさっきの説明を自分なりに解釈し、再確認する。
「じゃあアレなのか? 【エインフェリア】として働いていれば、その給料として僕らは生き返ることが出来る、って話なのか?」
ブラック会社も真っ青な環境かと思ったが、案外まともな職場のようだ。
「端的に言わなければ、少し違うわ。【エインフェリア】としての役目を果たせば、この学校の屋上にある【ビフレフト(虹の橋)】を渡って、遥か高みにある【ヴァルハラ】へ行くことを許されるのよ」
「【ヴァルハラ】……? なんか、それもソシャゲで聞いたことがあるな……」
「そこは、貴方たちの望みを実現させた世界であり、全ての後悔を消し去った後の現実――つまり、理想郷へ行くことが出来るのよ」
望みを実現……?
後悔を消せる……?
「まさか、それって――!?」
「さて、私からの説明はここまでにして、貴方たちから見て右順に自己紹介をしてもらおうかしら」
「って、うえぇぇーーーいっ!? このタイミングでそれかい!?」
思わず机からずり落ちそうになる。
これから更に盛り上がりそうな内容なのに、いきなり話題をシフトチェンジされた。
もう一段あると思った階段を踏み外した気分だ。
「こっちから見て右順……って、アタシから!?」
ショートボブの女子が慌てて立ち上がる。
他の四人の視線が一斉に集まり、恥ずかしそうに背を縮める。
「あー……やっぱトップバッターって照れるね。えーっと、アタシは宮瀬 綺花(みやせ きっか)。高二で十七歳。好きなものはラーメン! ……って、やっぱ今のナシ! うーん……女の子らしいと言えば……パスタ? パンケーキ? ……まぁ、アイスとかケーキとか、甘いモノ全般ってことで一つヨロシク!」
宮瀬は胸を張り、声を張って自己紹介をする。
まるで部活の声だしのようだ。
このノリは間違いなく体育会系だろうな。
スポーツをやっているだけあって、姿勢はピッとしており、キレイな健脚が目を惹く。
それに、全体的にスレンダーだ。
一部分もスレンダーな所は、きっと本人も気にしているだろうから触れないでおこう。
「あとは何を言えばいいのかな? ……そうそう、これを紹介しとかないと! アタシが選んだ武器!」
宮瀬は天に向かって金色の靴を掲げる。
「てけてーん! <雷神トール>! 履きやすそうなので選びました。アタシでも知ってるぐらいだから、みんな分かるよね?」
「知ってる知ってる。アレだろ? マッチョの神様だろ?」
「ちっがーう! ってか、女の子に向かってマッチョとか言うな! 雷神! 雷の神様!」
僕の好きなソシャゲでは筋肉モリモリのパンツ一丁だったから、きっとそうなんだろうと思ったけど違っていたのか。
そう言えば確かに雷属性だったな。
「おー、いかにも強いぞって武器だな」
「やっぱりそう思う? あー、早くこれで外を走ってみたいなー」
宮瀬は嬉しそうに金色の靴を抱きしめる。
オシャレさよりも外を走りたいという言葉が先に出るあたり、女子というより男子っぽいな。
「じゃあはい、次の人どうぞー」
「私、ですか……。こういうの、あんまり好きじゃないんですけどね……」
ため息混じりに立ち上がるのは、腰上まで伸びたロングヘヤーの女の子。
「葉月 美冬(はづき みふゆ)です。宜しくお願いします」
事務的に自己紹介をする葉月。
宮瀬とは正反対のノリだから、きっと文化系だろう。
黒タイツに、品の良さそうな顔つき。
それに、ヴァルキリーに負けず劣らず髪がキレイだ。
どこかのお嬢様なのかも知れない。
「えっと、君は何年生かな?」
「……その聞き方は、小学生に学年を尋ねるような言葉使いじゃないですか? 私は、お隣の宮瀬さんと同じ学年ですけど?」
しまった。
顔は幼く、ましてや背丈がアレなだけに、ついそういう聞き方をしてしまった。
「別にいいですけどね! よく間違われるから、気にしてませんけどね! えぇ、気にしていませんとも!!」
思いっきり気にしとる。
葉月の顔に、ハッキリと怒りマークが出ているのが見える。
しょうがないじゃないか。
だって、まるっきり小学生にしか見えないんだもの。
あっ、でも一部分だけは宮瀬よりも上だな。
「以上です! はい、次の方!」
怒りを撒き散らすように、荒々しく席に座る。
「……あれ? 葉月ちゃんは武器紹介しないの?」
宮瀬の指摘に、葉月はギクッと肩を揺らした。
「べっ、別に今でなくても良いじゃないですか。それに、ほら、マンガでも軽々しく自分の能力を明かしたりしないですよね?」
なるほど、確かに。
って、妙な説得力で納得させられそうになったが、仲間なんだから能力を明かすのが普通なんじゃないのか?
「えー? アタシは今聞きたいなー。ねぇ、ヴァルキリーさん。葉月ちゃんの武器って、どんな名前なの?」
「葉月 美冬が選んだ【流るる神々】か? 確か――」
「ちょっ、ちょっと待って下さい! 言います! 自分で言いますから!」
葉月は慌てて席を立ち、ヴァルキリーの言葉をさえぎった。
よっぽど聞かれたくない名前らしい。
観念したようにポケットから武器を取り出し、机の上に置く。
それは、掌サイズの黒いボールのようなものだ。
「私のは……キよ」
「え? キヨ?」
ごにょごにょと口ごもっていて、全然聞き取れない。
「葉月ちゃん! もっと大きな声で! 恥ずかしがらずにハッキリと!」
「うぅー……。わ、私のは……私のは! <戯神ロキ>よ!!」
ついに開き直ったのか、葉月は学校中に響くような声で叫んだ。
「ロキって……まさか、あの!?」
僕は思わず声を上げた。
いたずら好きの神様。
トリックスターの代表格。
マンガ、ソシャゲ好きなら絶対に知っているであろうビッグネーム。
雷神トールよりも知名度は遥かに上だろう。
ただしそれは、悪名としてだが。
「あっ、アタシも知ってる! アレだよね? しょっちゅう仲間を裏切るヤツだよね? ……ってことは、葉月ちゃんって裏切りキャラなの?」
「裏切りません!」
「またまたー。ピンチになったら敵に寝返るんでしょ?」
「ぜーーーったいに、うーらーぎーりーまーせーんー!!」
まるで小学生のケンカだ。
「うぅー……だから言いたくなかったんですよ……!」
葉月は頭を抱えて机に突っ伏してしまった。
そりゃその武器を選んだだけで裏切り者扱いはさすがに可哀想だわな。
まぁ、『私はロキを選びました!』ってキラキラの笑顔で言われても、絶対コイツは裏切るだろうなと思っちゃうけど……。
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