第4話 自己紹介の時間【男子編】
「お待たせしました! 三番手、俺!」
隣の男子が、よく分からないテンションで席を立つ。
立ち上がって初めて分かったのだが、僕より頭一つ分身長が高いようだ。
鼻筋や顔立ちがハッキリとしており、角度によっては外国の映画俳優に見えなくもない。
髪はオールバック気味で、後ろで短く縛っている。
短いポニーテールというべきか。
「名前は大道寺 拓海(だいどうじ たくみ)。同じく高二。好きなものは女の子の手料理。嫌いなものは野郎の汗臭い料理。というわけで、主に女の子たちとヨロシクしたい系男子です!」
僕の方に尻を向けたまま、大道寺は女子たちに猛アピールをする。
いっそ清々しくなるほどのチャラ男のようだ。
この野郎、黒ヒゲ危機一髪バリに剣をケツに刺してやろうか?
「そういうのはいいですから、さっさと武器の紹介をして下さい」
不機嫌な葉月に一蹴され、大道寺はショボンと背中を丸める。
身長が大きいから、なおさら哀れに見えるな。
「き、気を取り直して……。さぁ、俺の武器を見るが良い! 虹色に輝く、この腕輪を!」
大道寺は天に向かって拳を突き上げ、手首に付けた武器を見せつける。
「……腕輪? ヒモにしか見えないぞ?」
「どれどれ……あー、こりゃただのヒモだわ」「
完っ全にヒモですね」
凄い!
強そう!
そんな声を期待していたのだろう。
予想外過ぎる反応に、大道寺は何度も目をパチクリとさせる。
「……ヒモ? 腕輪じゃなくて? 百歩譲ってミサンガとか、ドリームキャッチャーとか、そういうマジック的なアイテムじゃないの?」
大道寺は助けを求めるように、僕らは答えを求めるように、四人の視線がヴァルキリーに集まる。
「ヒモよ」
神様のお墨付きとあっては、ぐうの音も出なくなっていた。
「……ひ、ヒモはヒモでも、きっと勝利に導くヒモなんだよ! このヒモの名前は、<軍神スレイプニル>! ぐ、軍神だぞ! どうだ、強そうでカッコイイだろ!? なぁ、そう思うだろ!?」
ただのヒモにしか見えない以上、強そうにもカッコ良さそうにも見えない。
それに、僕はその名前に聞き覚えがあった。
「確か……スレイプニルって、馬の名前じゃなかったっけ? 六本も足がある」
「あー、何となくアタシも知ってるわ。確かに馬だった気がする」
「完っ全に馬ですね」
大道寺は助けを求めるように、僕らは答えを求めるように、四人の視線が再びヴァルキリーに集まる。
「馬よ」
その答えを聞き、大道寺は拳を突き上げたまま、ゆっくりと席に崩れていった。
フォローしたい所だが、悲しいまでに強そうな要素が欠片も見つからない。
「じゃあ、ラストにババンッとヨロシク」
「えぇっ!? この流れで!?」
何気に無茶振りしてくるな、この宮瀬さんは。
「あのー……僕は、犬飼 剣梧(いぬかい けんご)。でも、犬は飼ってないよ」
僕の鉄板ネタだが、場が白けていくのを肌で感じた。
「まぁー……【流るる神々】っていうのかな? とにかく、僕の武器はこの剣。<剣神シグルズ>って聞いたことも無いマイナーな神様だけどね。はい、お終い!」
僕は早口で自己紹介を終わらせ、席に座る。
反応なんてどうだって良いから、さっさと終わらせたかった。
だいたい、こんな濃い面子に対抗できるワケないだろ!
宮瀬は何とも煮え切らない顔で言う。
「んー……。なんていうか、その、ゴメンね? キミ、至ってフツーだねぇ……」
謝られてしまった。
クラスでは名字だけでそこそこ目立つのに、ここでは地味でかすむような存在にしかならないようだ。
「完っ全に普通ですね。……でも、普通が一番ですよね……。私なんか、自己紹介しただけで裏切り者扱いですよ……?」
葉月は黒いボールを握り締めたまま、うらやましそうにさめざめと言った。
「マイナーでも強そうだから良いじゃねぇか! 俺なんか、ヒモだぞ……? ヒモで馬だぞ……? 軍神だなんて、名前負け過ぎんだろ……」
大道寺も大道寺で、拳を突き上げたまま妬ましそうに言った。
ちょっと待て、こんな面子で本当に大丈夫なのか?
「自己紹介は終わったわね? では次に、この場所について説明を行うわ」
この惨状をものともせず、ヴァルキリーは説明を続ける。
こっちはこっちでマイペース過ぎるだろ。
「まず、この学校だけど――」
ヴァルキリーはハッとした顔で言葉を切った。
ツカツカと窓際に歩いて行き、ガコガコと建て付けの悪い窓を開ける。
「多数の<霜>を確認。これより【エインフェリア】と共に、【ビフレフト】の絶対防衛に務める」
遠くを見たまま、ヴァルキリーはブツブツと喋る。
独り言のハズなのに、どこか機械的だ。
ヴァルキリーは振り返り、窓の向こうに手をやる。
「各人、戦闘の準備を。【恐ろしい冬】と共に、敵が来たわ」
戦闘準備って……え?
まだチュートリアルの途中だよね?
そもそも――。
「了解! やったー! さっそく靴の履き心地を試せる!」
先陣を切って教室を飛び出していったのは、宮瀬だった。
「ふふ……いいですよ。私は裏切りキャラじゃないって、ちゃんと戦闘で証明してみせます!」
意外にも葉月がやる気満々だ。
汚名返上と言わんばかりに、黒いボールが変形するぐらいに強く握り締めている。
「……いや、そうだな。俺が選んだ武器なんだから、絶対強いハズに決まってる! うぉぉぉーーー!! やってやるぜ!! 俺のハーレム計画は、まだ始まったばかりだ!!」
不吉な言葉を発しながら、大道寺はニンジンをぶら下げた馬の如く走っていった。
あっという間に教室は空っぽになった。
僕だけを残して。
「ねぇ! これの使い方は!? ヘルプってないの!? 使い方知らないのに、どうやって戦えっていうんだよおぉぉぉーーー……!!」
僕の叫びは、学校中に虚しく響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます