紅色 ~傷~27

「『カラーズ』って、あのカラーズだよな?」


「あぁ、あの、人工都市では都市伝説に近い存在の、あの『カラーズ』だ」


昼休み、果柱はばしら神無月かんなづきに対して、何処か遠慮のような他人行儀な態度だった理由をいた俺は心底驚いた。

驚いた──『カラーズ』と言うその名の通りのカラーチームが仲の良さそうだった果柱と神無月の間に小さな亀裂を生んだ理由だったから──ではなく、俺が驚いたのは理由ではなく、結果だった。

過程ではなく結果。

何か理由があったのでは、と捏造できる過程ではなく、どうしょうもない、どうしたって変更できない、混じりっけない結果だった。

ここでの理由は、『カラーズと言う話題が果柱と神無月の間に小さな亀裂を生んだ』ことで、結果とは、『カラーズなんて言う、実在する現存する都市伝説によって、神無月は果柱を置いて一人屋上へと上がった』こと。

正直な気持ち、俺は神無月はこんなくだらない──と、まではいかなくとも、本来ならどうでもいい理由でそんな思い詰めたよう行動を取るだろうか。


「細かいことまで訊いてもいいか?」


「あぁ、いいぜ」


それはよかった。

ここで、『カラーズ』なんて言うキーワードだけを訊いても結果しかわからない。

結果の前の過程より前の、準備段階の場面での二人の会話を訊かない限り、これ以上は詳しくはわからない(俺は眼鏡をかけた子供の名探偵でも、名探偵の孫でもないからな)。

果柱と神無月の気持ちを根拠もなく、当てずっぽうに近い憶測を立てることはできるが、そうすると俺の頭の中がこんがらがるので止めておこう。


「最初はホントに何気ない話しをしていたんだ。ゲームとか。でも……」


「でも?」


「神無月の様子がさ、可笑しかったんだ」


「可笑しかった?それって、何か思い詰めていたとか、そういったマイナス方面の方か?」


「いや、神無月は……めっちゃ気分が良さそうだったんだ!」


「は?」


気分が良さそうだった?

それの何処か可笑しいってんだ。

それなら、エロ……恋愛ゲームの動画のヒロインの可愛らしいシーンを見て顔をニヤニヤさせている俺は可笑しいってことになるが。


「だってあの神無月だぜ!?いつも学校に登校してくる時はのべーとだらーとやる気のなさそうにしてる神無月がだ。まぁ、それも2年生になってからは何故だが少なくなって、学校生活を少しでもenjoyしほしい友達の俺としちゃ嬉しいことなんだが、それがすげー極端でな、傍から見てもわかるほどに」


「俺はお前ほど神無月と親しくはないからどうこう言わないが、誰にだってそういう日はあるだろ。そう言う俺だって、昨日、ガチャで10連失敗したから今日は憂鬱ゆううつな気分だ」


「それはそれはご愁傷様」


ホントだよ。

せっかく貯めてた石を全部吐き出すことになった。今日何か良いことがあっても罰は当たらないだろう。


「それで、神無月が気分が良さだったのが可笑しいと言うお前の意見はわかっけどだからどうしたんだ」


「それがさ人生最大の運を使った後かのように幸福に包まれていた神無月を見たらさ、何だかテンション?みたいのが上がっちゃってさ、それで」


カラーズの話題を出した、と。

果柱はそのことに後悔しているようだった

自分のせいで神無月を傷付けた、と。

何かはわからない。どうしてかもわからない。どの部分でかもわからない。

What とWhere とWhich が行方不明で捜索中の現状、それらをまとめた括り、部分集合ではなく全体集合を非難せざるえない。

つまり、神無月でもましてや『カラーズ』という曖昧の部分集合をバッサリと切り捨て、『悪』とお前は悪なのだと太鼓判たいこばんを躊躇なく振りかざして押すことはできない。

ならば誰が悪いのか、と問われればその誰かは本当にいるかもわからない空想の誰かを担うのは残った──必然的ひつぜんてきに果柱が残した果柱自身以外いない。

自己非難。

果柱は被害者の席を神無月に開け渡し、加害者の席に自分が座った。

友達故に、クラスメート故に、人間故に、こんな俺にとってはくだらないどうでもいい事柄で傷付くなんてやはり、人とは果柱とは俺とは比べ物にならないほどに優しくて、人間らしい奴。

だから、俺より上等な友達思いのそんな優しい人間らしい果柱に言葉をおくろう。


「気にすんなよ。そんなことで」


あまりにも他人事で、匙を取ったのに即座に投げ捨てる傲慢ぶりを披露する俺、杉慕京太郎すぎしたきょうたろうは今日も今日とてモブらしい平常運転をぶわぶん乗りまわす。






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