紅色 ~傷~ 23

「誰だ、お前ら?」


生徒指導室から出てきたのは、身長190cmもあるだろう長身の男性だった。

僕と似た黒髪天パに釣り上がった鋭い目に長い睫毛まつげ、加えて整った顔立ちがそれら要素をまとめていた。

服装は、えりシャツの上から黒い執事服を羽織り赤い蝶ネクタイをしている。

不思議と違和感のない組み合わせ。

そう、違和感の……ない……ん?執事服?執事服って言えば、あの借金執事とかの執事?超イケメンの超人の執事?

執事服に赤い蝶ネクタイ……執事だ。

──純度100%の執事だ。


「──オイ!聞こえてんのかッ!?」


「……」


執事ね〜。漫画や小説の中だけのリアルでは絶滅危惧種な存在だと思ってたけど、ホントにいるのか〜。世の中って案外狭いのかな?


「オイ!って言ってんだよ!!てめぇの耳は飾りか?飾りじゃないなら、返事しろや!!」


「……」


でも、どうして執事が?この学校にお嬢様じょうさまでもいるのだろうか?神愛さん?いやいや、神愛さんが実はお嬢様とかお姫様とか神様がつくった最高傑作の生命とか言われてもなるほどなるほど、となるけど、それはないよね。

だって、神愛さんは誰かを従えたり、誰かに命令したり、他人と上下関係を強制するような人じゃないはずだ。

なぜなら、『神愛乙女かみあいおとめ』とは、そういった上下左右に振り回されず、我が道を悠々ゆうゆうと確固たる覚悟を持って歩んで行ける、僕や他の人とは魂の色から異なる別次元の生命なのだから。

きっと、神愛さんを知っている人なら僕と似た感想を抱いでいるに違いない。



「────神無月君」


「あっ、はい!。何ですか神愛さん?」


神愛さんの声で顔を伏せていた顔を上げる。

神愛さんは苦笑いをして、僕をあわれむような目をしていた。

……ん?


「……どうして僕をそんな、ヒロインが一所懸命に好きな主人公に告白しようとしたけど、肝心の主人公は″ちょうど″別のことを考えていてヒロインが告白し終わった後に″ちょうど″ヒロインのことに気が付いて、ヒロインの告白が全く耳に入ってなかったラノベ系鈍感けいどんかん難聴なんちょう主人公に向ける読者的目線な哀れみの目をしてるんですか?」


「……的確だね。そこまでわかってるなら、どうして今の状況を理解できないのか不思議だよ……」


神愛さんは額に手を当て、大きなため息を吐く。


「それは、どういう」


意味ですか、と神愛さんに聞こうとした時、何やら背後からもの凄いオーラを感じた。

──色は赤色。

──イメージは真っ赤に燃える炎。

──例えるなら、『おに』を連想させる恐怖。

つまり──『いかり』。

文句なしの怒りの波動をひしひしと肌に感じて、額から嫌な汗がぶわっと噴き出す。


「……」


恐る恐るびくびくと僕の背後にいるであろう例の執事服の男性に視線を向けた。


「ム〜ッ!!!!」


「……」


案の定お怒りの御様子だった。

生徒指導室から出てきたこの執事服の男性の前で僕は棒立ちとして、退路を絶っていたらしことを知る。加えて、驚くことに邪魔だから退どいいてくれと何度も言っていたのにも関わらずに僕はそれを無視し続けていた。

──怒りマークが沢山だ。

不思議と強ばっていた顔は次第に笑顔に変わる。


「どうして。笑ってんだ」


「はい、これからの展開が読めていて」


「それはそれは、潔いい奴は好きだぜオレは」


「それは良かったですね」


「あぁ」


「アハッ、ハハハハ」


「ハハハハ」


「「ハハハハハハハハ」」


……

…………

………………


「ムカついたッ!!!!」


「ですよね〜」


バシンッ!!と盛大な音が誰もいない廊下に反響した。

僕は後にこう語る。


「やっぱり、ラノベ系鈍感難聴主人公は大変だな〜アハッ、ハハハハハハハハ」と遠い目をしながら語った。















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