紅色 ~傷~ 18

「ふっ!甘いぞ!甘々だぞ斎藤さいとう!お前のその一撃は俺のソウルを震わすが、俺のこの気高きソウルは打ち射抜けない!つまり、俺はお前より強いってことだ!」


「な、めるな!僕の僕の進化エヴォルはまだまだ始まったばかりだ!僕の一撃一撃が佐藤さとうの一撃より下だってことは知ってる。たとえ、僕が逆立ちしたってかないっこないって、そうかもしれないけど……それでも、僕は最後の最後のポイントが取られるまで、決して諦めたりしない!それは、僕のソウルに誓う!」


「……斎藤」


「だから、見せてやる!僕の、僕の決して諦めたりしない心が示す黄金のソウルの一撃を!」


「──!こ、これは斎藤の体からさっきとは比べものにならない程のオーラが!ま、まさか、斎藤お前はまだ、まだ進化エヴォルするというのか!?しかし、そんは莫大ばくだいオーラをお前に扱えるわけがない!?……」


いな!断じてイナ!この溢れんばかりの莫大なオーラの放出を僕の身に纏わせアームド、空気中の自然エネルギーさえ力に変化し、僕の身体能力ステータスを2倍、5倍、いや、20倍まで上昇させる僕の最後の奥義おうぎ……進化超越エヴォルーション自然変換ディスチャージだ!」


進化超越エヴォルーション自然変換ディスチャージだと!?」


「そうだ佐藤!そして、これが僕の最後の奥義の進化超越エヴォルーション自然変換ディスチャージで20倍にまで上昇させたオーラを纏わせたアームド僕の全身全霊ぜんしんぜんれい!僕の最後の一撃だ!受け取れ佐藤さとうッ!!」


「何てオーラだ!俺の5倍、10倍……30倍だと!?ふ、ふざけるな!!帝王はこの佐藤だ!!たかが、初めて1年の初心者小僧に俺の最終秘奥義拡散せよ魂アトミック終わらぬ終焉が為にオブザエンドレスが破られてたまるかー!!!!くたばれ斎藤!負けるのはお前だ!!!」


「これで、終わりだ佐藤──────!」


「これで、終わりだ斎藤──────!」


「「おおおおおおおォォォォォぉおお!!」」


斎藤が打ったを佐藤は空振りした。


「ま……まさか、この俺が負けるとはな。ふっ、強くなったな斎藤!」


「あ、ありがとうございます佐藤……いや、師匠!!」


二人は戦いの後の暑い握手を交わし、互いに笑顔を浮かべ、史上最大の好敵手に賞賛を送り合う。

二人は地面に置いたを持ってその場を去った。





「グラウンドで五月蝿いアイツら何やってんだ?」


「バトミントン」


と、俺こと杉慕京太郎すぎしたきょうたろうは友人の葉柱はばしらに告げたのだった。


「……あんな奇声みたいな台詞セリフ言いながら?」


「モチのロン」


葉柱はばしらは頬を引きつららせて俺を見る。俺にそんな顔をされたって困るのだが……。俺には斎藤と佐藤の抑制よくせいなどできはしない。


「いやなぁ〜、昼飯を同じクラスの友達と食べてトイレに行った帰りに運良くアイツら、斎藤と佐藤がグラウンドの方で騒いでたから窓から見ると、こりゃまたビックリ、ただバトミントンしてるだけんなんだよ」


「そりゃまたビックリな出来事だな。それも斎藤と佐藤の台詞も台詞だからな」


俺も最初斎藤と佐藤のあのやり取りを見たときは流石に目玉が飛び出るかと思った。「喰らえ僕の腕をソウルを!そして、この手に勝利の栄光を!」「呪われし神器じんぎよ!我がソウルを喰らいて走れ怨恨えんこんの運命を喰い破るが為に!」と意気揚々に二人とも完璧に役に張り切っていて傍から見物してる俺は、尺にもその圧倒的な演技力(?)に魅力されかけた。

魅力されかけた、ってのは斎藤と佐藤がやっているのは結局のところ何かしらの物事に自分達が考えた台詞を設定を組み込む作業だ。

つまり、傍から、傍観者の俺には佐藤と斎藤は中二病な発言をしてそれに合っている動きをして遊んでいる……風に見える。


「いや〜、今時にあんな風に子供じみたことしている奴いるだな。俺も小学生のころにやってたわ。ほら、〜戦隊とか、〜ライダーとかさ」


「そうだな。俺もしてた。あんな風に何かの真似事していると真似した相手と同じになれるんじゃないかと薄い期待していたな」


昔、まだ小さかったころの自分を思い返して少し頬が緩む。


「でも、葉柱はこの学校に入学当初からいるんだろ?なら、何で斎藤と佐藤のあのやり取りを知らないんだ?あいつらには悪いけど、そこそこ有名だぜ。ネタとしてだけどな」


俺はこの私立貼華てんか高校に通い始めたのは中学校からだ。貼華高校……貼華高等学校はその名の通り中学校と高校が合体している。当然ようにこの学校に通うには鏈華中学校の方で受験し、そのままエスカレーター方式で鏈華高校に上がるか、鏈華高校に外部受験してくるかの二通りだ。

俺は前者の小学生のころに中学校に受験してそのまま高校へとエスカレーターで上がってきた。

葉柱はばしらは後者の高校受験者だ。だから、外部生の果柱とその友人の神無月と内部生の俺とは別々のクラスだ。

俺が二年C組。葉柱はばしら神無月かんなづきは二年E組だ。


「俺ってさ、ここの高校に入学した当初は今ほどはっちゃけていなかったんだよ」


葉柱はそう言うとどこか懐かしそうな雰囲気で「うんうん」と首を振る。


「意外だな……」


この果柱って男は一言で言い表すとチャラ男に近い人種だ。そんなチャラ男モドキが1年ちょっとでここまで変わるものなのかと疑問に感じた。


「高校一年の俺はとにかく引っ込み思案で、クラスの新鮮な空間に中々馴染なじめなかったんだよ。今更ながら、俺に根性がなかっただけだがな……」


そうだろうか?俺には良くわかる感覚だ。新鮮な空気は時に人をすくませて、後退りさせ、正常な動きをにぶらせる。

俺も……そうだ。


「それで、アレだろ。休み時間や昼休みの間には本屋でブックカバーを付けてもらったラノベを読んだり、寝たり」


「そうそう。そんな感じに、何とか周りに自分は暇を持て余してないってアピールをしてたんだよな。……結局最後はクラスの楽しみの空気に負けて、誰か話してこいっ、て期待してしまうんだよな。はぁー」


葉柱は大きなため息を吐く。高1の自分を今更ながら後悔しているのか、黒歴史に登録して恥ずかしがっているのか、まぁ、後の祭りだよな。どれだけ、黒歴史を悔いたって。


「よく、そんなThe インドア派の果柱が今のチャラ男モドキになれたな。人は変わるって言ったって変わりすぎじゃね?」


「……モドキって、杉慕すぎしたお前って奴は……」


そんなじと目で俺を見るな。

2次元の美少女に見つめられるならむず痒さを我慢して快く受け止めるが、男の、それも3次元の男に見つめられても気持ち悪さしか起きない。

……どこかに俺の美少女ヒロインはいないものか。


「お前が友達でも若干薄情なところがあるのはここ最近で気付いたから、まぁいいや。それより、お前の方は大丈夫なのか?」


「ん?何が?」


突然の返し。突然の質問にビクッとするが、すぐに頬を緩ませ、普通に笑ってるような顔を作る。


「何がって、お前のクラス奴に聞かなかったのか?昨日、人口都市に『切り裂き魔』が出たって、ニュースでも取り上げられてたぞ」


葉柱のその言葉に眉にしわを作る。正確には果柱の『切り裂き魔」』という普段の日常では中々聞き慣れない単語に俺のイベントレーダーが反応した。







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