戦って、仲直りして、みんなで帰ろう


 ちなみに、回復して動けるようになったその後についてだが、シルヴェスターさんたちからこの世界について教えられたり、『迷い子』がどんなものかを教えられたり、いろいろと経験することになるのだが――何より、瀬野せの君(故郷のクラスメイト)たちが召喚されていたり、魔王を筆頭に、アイ君やリーンたちがやってきたことにも驚いた。


「アイ君! リーン!」

「アヤセ!」

「本当にっ、本当に居たよぉっ……」

「感謝しろよ、勇者。私が見つけてやったんだからな」


 感謝はするが、どこか偉そうな魔王は無視する。


「無視か。おい、無視するのか」

「はいはい、ありがとうありがとう」

「感謝の意が感じんぞ!」


 何だか、このやり取りも懐かしく思えてくる。


「それで、どうする。このまますぐに戻ろうと思えば、戻ることも出来るが」

「んー。じゃあ、荷物とか用意しないといけないから、もう少しだけ待ってて」

「ちょっと待て」


 シルヴェスターさんに止められた。


「何ですか?」

「リオたちに、何も言わないつもりか?」

「手紙とかで言いますから、渡してもらえません? こうして、迎えが来てるわけですし」


 迎えに来られているのに、「一緒に帰れないから、そのまま帰ってくれない?」とは、さすがに言えないし。


「アホか。このまま永遠の別れみたいになってみろ。何で止めなかったって、俺が怒られるわ。せめて帰るなら、仲直りしてから帰れ」

「むー……」


 シルヴェスターさんの意見も間違っていないから、反論できない。

 どういうわけか、最近リオゼールさんとは話せていないのだ。特に喧嘩したわけでもないのに。


「どうするんだ、勇者」

「魔王。繋ぐのに魔力がいるのは分かる。ただ、接続しっぱなしで何日持つ?」

「ずっと接続しておく必要はないが、接続したままなら、最短で五日、最長で七日だな。再接続には一日いる」

「……」


 どちらにしろ、一週間だ。

 その期間内で荷物を纏めて、リオゼールさんと仲直りしないといけない。


「……シルヴェスターさん」

「リオなら、射撃場に居るはずだぞ」

「まだ、何も言ってないんですが」

「今までの付き合いから察したんだ。分かれ」

「無茶言わないでくださいよ。……とりあえず、行ってきますが」


 そのまま、射撃場に向かう。

 時間は有るようで無いんだから。


「……あ、本当に居た」

「何の用?」


 目は的に向いているはずなのに、気づくとは相変わらずだ。


「迎えが来たので、帰ります。だから、そのために仲直りしにきました」

「は……?」


 あ、外した。


「迎え?」

「やっと、こっち見ましたね。そうです。迎えです。なので、元居た世界に帰ります」


 さあ、こっちの用件は言ったぞ。


「シルヴィは……」

「迎えが来たときに居合わせたので、知ってますよ」


 どちらかといえば、慌てて飛んできたような感じだったが。


「……そうか」

「リオさんはシルヴィさんに次いで、こっちに来たときに会った人ですからね。ちゃんと挨拶に来ました。この後は、メルさんの所に行く予定ですが、一緒に行きます?」

「……ぁ、」


 リオゼールさんが口を開こうとしたときだった。


千宮司せんぐうじ!」

「げっ、瀬野!?」


 よりによって、瀬野が来るとかっ。


「げっ、て何だよ。げっ、って」

「あ、いや……」

「悪いが、ちょっと借りるよ」


 リオゼールさんが引っ張りながら走り出したからか、景色が色でしか判断できない。


「うぇ? っ、ちょっ――」


 何か、変な悲鳴が出たんですけど!?


「え? アヤセ?」


 一瞬、アイ君たちの声が聞こえた気もするが……ヤバい。意識飛びそう。


「っ、て!」


 何の説明も無しに、地面に落とされた。何これ、理不尽じゃね?


「いきなり、何す――」

「ここなら、誰も邪魔はしないだろ」


 いや、その前に説明が欲しい。


「――って、思った側から、これだし!」


 説明無しに、ナイフを投げてくるのは止めてほしい。


「何。逃げるの?」

「その前に、説明! 何の説明も無く、相手できないし!」


 しかも、無駄に怖い。レベルから言えば、魔王やラスボスとかとは別の怖さなんですけど!


「っ、と!」


 危機察知能力に感謝である。

 それにしても、あの速さを出されたら、正直マズい。


「けど、このままでも十分じゅうぶん、マズいし」


 目を閉じて、息をゆっくり吐き出す。

 相手は敵じゃないけど、戦闘不能にしないと、きっと話すことも出来ない。


「だったら――」

「『術』は使わせない」


 カチリ、と背後で音がする。

 っていうか、何で危機察知能力も働かなければ、数秒単位でも気づかなかった――?


「リオ、さん……?」

「……」


 返事はない。

 もの凄く、嫌な予感がする。これは――駄目なパターンだ。


「まあ、そう簡単に諦めるようなタイプでもないんだけどさ」


 振り向くのと同時にかがんで、リオゼールさんの足を蹴る。

 その時、バランスを崩すのと同時に、引き金が引かれるけど、弾はこっちに来ることなく、地面に当たった。


「あっぶなー……【幸運値】高くて良かったぁ……」


 そもそも今のは、当たるか当たらないかの二択だけど、こんな命懸けの二択、嫌だ。


「とはいえ、前の世界と同じように、【幸運値】が高くて助かったぁ」


 下手したら、さっきので死んでたかもしれないし。


「って、あれ?」


 そう言えば、シルヴェスターさんたちと最初に会ったときのことも思うと……あれも、【幸運値】の影響?


「だとしても……この状況には、納得できないっつーの!」


 銃相手に接近戦の剣とか無理があるかもしれないし、防具を付けてないから、さらに無謀のレベルが跳ね上がる行為になるんだろうけど。


「魔王やラスボス相手よりは――よく見てた相手だから、どうにでもなる!」


 リオゼールさんの手から、魔導銃を叩き落とす。


「っ、」


 リオゼールさんは剣も使えるから、短剣とかも用心しつつ――


「駄目ぇっ! アヤセ!」

「っ、」


 あ、しまっ――


「お前ら、バカか! あと、リオ。お前、誰を相手にしているのか、よく見て見ろ」


 リオゼールさんの短剣を受け止めたシルヴェスターさんが、怒りを露わにしながら、彼を見る。


「あの男も大変だな。いろいろとストレスが混ざり合って、中途半端にお前に八つ当たりしたんだろ」


 隣に来た魔王が言う。


「まあ、される方は、溜まったもんじゃないがな」

「アヤセ!」


 リーンたちが駆け寄ってくる。


「でも、びっくりしたよ。いきなり声、掛けてくるんだもん」

「ごめん。でも――」

「いいよ。心配掛けたこっちの責任でもあるから」


 どうやら、こっちが話している間に、シルヴェスターさんとリオゼールさんの話も終わったらしい。


「シルヴィさん。リオさんは……」

「ああ、あいつ自身の問題だから、お前は気にする必要はない」

「シルヴィさんがそう言うなら従っておきますが、これではリオさんとも仲直り出来ませんよね……」


 上からの許可や相手の同意無く戦闘行為をしたことから、多分、リオゼールさんは何らかの罰則を受けることになるだろう。

 でもそうなると、仲直り出来ないから、帰るのも遅くなりそうだ。


「アヤセ……」

「ごめん。帰るの、もう少し後になりそう」

「気にしないで。アヤセなら、そう言うと思ってたから」

「リーン……」


 いくら彼女たちとの付き合いで分かっているとはいえ、申し訳なくなってしまう。


「いいよいいよ。何なら、こっちもこっちで、この世界を楽しむからさ」

「アイ君も……ごめん」


 本当、良い仲間を持ったと思う。

 その後に分かったことだが、リオゼールさんが何故攻撃してきたのかは教えてもらえなかったが、戦闘行為に関しては許してやってくれと言われた。


「あー、悪かった。何の説明もなく攻撃したりして」

「大丈夫ですよ」


 正直、死ぬかと思いましたけど。


「優しいな、アヤセは。普通は理由を追及するもんだろ」

「それはそうでしょうけど、リオさんが話したければ話してください。皆さんは皆さんで、教えない方が面白そうだと思っているのが丸分かりですし」

「ああ、そう……」


 リオゼールさんが苦笑いした後、「あいつら……」とシルヴェスターさんたちを思い浮かべたのか、顔を引きつらせる。


「それで、帰るんだっけ」

「はい、お世話になりました。何とか話せて良かったです」

「寂しくなるな」


 リオゼールさんと話せなかった間に、メルクリウスさんたちに挨拶に行ったから、罰則を受けていたであろう彼が最後になったわけだけど。


「というわけで、もう二度と会えなくなると困るので、最後に魔導銃を触らせてください」

「最初に会ったときといい、本当に君は魔導銃が好きだね」

「貴重な経験は、いろいろしておくべきですから!」


 『魔剣』という剣はあっても、『魔導銃』なんていう銃は無いから、触れるうちに触っておかないと。


「貴重な経験、ね」


 リオゼールさんがそう呟くと、「はい」と魔導銃を渡してきた。


「やっぱり、良いですね。魔導銃」

「そう?」

「遠距離攻撃用の武器として、弓やクロスボウとかも良いですけど、火力を考えたら、銃器系は捨てがたいんですよねぇ」


 重量や撃つ際の反動とかを考えたら、弓とか魔法の方が良いんだろうけど。


「あげようか?」

「欲しいのは山々やまやまですが、悪目立ちはしたくないので、止めておきます」


 故郷に持って帰れば、魔導銃として機能しなくなるか、銃刀法違反で捕まる可能性があるので、それを考えたら、止めておいた方が良い気がする。


「そっか」

「最後に触らせてくれて、ありがとうございました」

「こっちこそ、ありがとうね」


 お礼を言ったら、され返された。


「本当、いろいろ・・・・と」

「は、はぁ……」


 笑顔で誤魔化された気もするけど、触れたらいけない気がするから、触れないでおく。

 そして――


「やっと帰れるー」

「……誰のせいだか」


 黙れ、魔王。


「それでは、皆さん。今まで本当にお世話になりました」

「ああ、元気でな」

「気をつけてね」


 シルヴェスターさんとリオゼールさんが別れの挨拶をしてくれる中――


「あーん。もう少し、居てもらえない? そして、是非私たちのネタに……っていたっ!」


 妙なことを口にしたメルクリウスさんが、リオゼールさんから軽くはたかれる。


「メル、余分なことは言わなくて良い」

「えー?」


 よく分からないが、仲が良くて羨ましい(と気付かない振りをしてみる)。


「ほら、行くぞ。勇者」

「はいはい」


 魔王に呼ばれ、あちらとこちらを繋ぐ『ゲート』に近づく。


「それでは」

「これで、失礼します」


 リーンやアイ君が、先に『門』を通っていく。


「アヤセ!」

「はい」


 呼ばれて、あっさり振り返ったのが悪かった。

 ポイッと何かが放り投げられる。


「餞別」

「え、でも……」


 これ、指輪だよね。


「異世界との連絡手段用に作ってみたから、帰るついでに試せだと」

「人を実験台にするんですか」

「ちなみに、こっちでの受信用はメルが持つ」

「……分かりました。通じなかったら通じなかったで、どうなっても知りませんからね」


 それでも、心のどこかで期待している自分が居る。


「多分、問題ないよ」


 この時、メルクリウスさんがそう言った理由を、少しでも察するべきだった。


「それでは、今度こそ行くので」

「ああ」


 そのまま振り返らずに『門』を通る。

 そして、見えてきたのは――


「あ……」


 みんなで旅した、一つ前・・・の世界。


「ちゃんと、帰ってきたんだ……」


 戻ってきたのは故郷ではないけれど、それでも、何も知らない世界よりはマシだと思うんだ。

 あちらでは戦場スタートでいろいろあったけど、今では懐かしく思えてしまう。

 だから――


『アヤセ?』


 姿は見えずとも、声が聞こえただけで、あの世界での事がいろいろと思い出してしまう。


「ちゃんと、聞こえてるから」


 たとえ世界単位で離れていても、連絡手段がある限り、きっと――故郷からでも、ちゃんと繋がっていられるから。


「こっちは大丈夫だよ」


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迷い勇者は帰りたい 夕闇 夜桜 @11011700

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