目覚めて、自己紹介しました

   ☆★☆   


「あ……知らない天井……?」


 とりあえず、目は覚めたけど、体が重い。指先は動くけど、起き上がれない。どうしよう。


「あ、気づいた?」


 さっきの声が聞こえたのか、女性(美人である)がカーテンの合間から顔を覗かせてくる。


「調子はどう? あ、その前に何言ってるのか、分かる?」

「……はい。でも、起き上がれません」

「あー、それは仕方ないって言うか、後でちゃんと説明するよ」


 女性はそう言うけど……ああ、そうだ。


「あの二人は、無事ですか?」

「ああ、シルヴィたち?」


 あの二人のどちらかは、シルヴィと言うのか。


「あ、名前も分かんないんだったね。君を助けた二人は無事だよ」

「そう、ですか」


 無事なら良い。

 あの二人が無事ということは、あの魔法は発動しなかったと言うことだ。


「あと、事後報告だけど、君の言語認識に対して、少しいじらせてもらったよ。通じないことを、あの二人が気にしてたからね」

「だから、貴女の言っていることも、こうやって分かるんですね」


 なるほど、納得した。


「さて、と」


 女性が立ち上がる。


「そんな所に居ないで、さっさと入ってきなさい!」


 ドアの外に出たかと思ったら、「うわっ!?」とか聞こえてきた後、女性に押されて二人が入ってきた。


「……あ、起きてた」

「分かってたことでしょうが」


 女性が茶髪の――銃の主を小突く。


「その……話してること、分かるか?」

「問題無く」


 そのことに、二人が息を吐く。


「あのさ。君が目覚めたら、聞きたかったんだけど」

「何ですか?」

「何で、あんなに銃に興味を持った? 興奮気味に何か言ってたよね?」

「ああ、その件ですか」


 何を聞いてくるかと思ったら、銃の件とは。


「別に、故郷に銃が存在しないとかじゃ無いんですが、ただ単に気になっただけです」


 そう、気になっただけ。


『アヤセ。私もね、別の世界から来たんだよ』


 似たような銃を使ってたからだとか、もしかしたら、あの人の故郷だったりするのか、とは後で思った。


「お前が使ってたあの剣はどうした?」

「流れで察しますが、あれはあの場所で拾ったものですよ。あのまま死にたくなかったですし、形振なりふり構ってられなかったので」


 あの時ばかりは、一度別世界で剣に慣れていた自分に感謝である。

 本当、勇者としての経験様々さまさまだ。


「そうか」


 銀髪の――剣の主が、そう呟く。


「それじゃ、ちゃちゃっと自己紹介済ませてくれるかしら?」

「そうだな。俺はシルヴェスター。シルヴィで構わない」

「俺はリオゼール。リオでいいよ」

「私はメルクリウス。メルって、みんなは呼ぶわね。医者をしてます」


 銀髪の人がシルヴェスターさん、茶髪の人がリオゼールさん、桃色の髪をしているのがメルクリウスさん。


「こんな体勢で、申し訳ありません。千宮司せんぐうじ綾瀬あやせです。千宮司が姓、綾瀬が名前です。ご迷惑をお掛けいたします」


 ちなみに、この名乗り方は、一つ前の世界で名乗った名乗り方でもある。

 本当は、名前と姓を入れ替えて名乗った方が良いんだろうけど、こっちは姓・名前の順で慣れちゃってるからね。


「んー……じゃあ、アヤセ、で」

「あ、はい」


 笑顔でリオゼールさんが呼んでくる。

 それにしても、この世界でも、イントネーションは微妙に違うんだな。


「それと、動けないのは、貴方の中から『気』が無くなったから。回復すれば、体を起こせるようになるけど、回復したと思っても、無理に動かないようにね」

「『気』、ですか……」


 メルクリウスさんが説明してくるが、おそらく、魔力的なものだろう。


「分かりました」


 とりあえずは、従った方が良いだろう。

 何か行動するにしても、体が動かないことには何も出来ないし、もし仮に捕らわれることになったとしても、助けてくれた三人には悪いが、逃げることも出来るだろう。異世界の勇者の身体能力をめんなってんだ。


「それじゃ、お二人さん。その子のこと、任せたからね」

「ああ」

「分かってる、分かってる」


 そんなやり取りをして、メルクリウスさんが、この部屋から出て行く。


「さて、お前にはいろいろと言わなきゃいけないこともあるが……」

「今は、ゆっくり休みなよ。ここは安全だから」


 そう言うと頭を撫でられるのだが、もしかして、子供扱いされてないか?

 二人に何歳ぐらいに見えているのか聞いてみたいところだが、せめて十三から十五って答えてほしい。

 そう思った今日こんにちである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る