保護しました

   ☆★☆   


「……っ、」

「あら、シルヴィ。焦ってどうかした?」

「メル、こいつを助けられない?」


 焦った様子で、入ってきた男二人に、他の負傷者たちを診察中だった私は、奴らに冷たい目を向ける。


「あら、可愛らしい子。けど、残念ね。重傷及び重症者優先よ」

「けど、こいつ『術』みたいなの使って、ぶっ倒れんだ」


 ……ふぅん?


「それは、『気』の使いすぎで倒れたんでしょ? リオもそれは知ってるはずなのに、焦る必要ある?」

「それはそうだが、こいつとは会話が出来ない」

「……密偵、じゃないわよね?」


 疑ってしまうのは仕方がない。

 今回の戦争だって、放たれていた密偵に情報を持ち帰らせてしまったことが原因なのだから。


「会話が出来ないから、お前の所に来た。『迷い子』の可能性もあったから」

「なるほどね。で、この子の保護は保留するにしても、後見はどちらがするのかは決めておきなさいよ」


 『迷い子』――他の世界からこの世界に迷い込んできた者たちを、私たちはそう呼ぶ。

 それなりの影響があることから、保護はするが、後見は基本的に人格と経済状況に問題なければ、発見した者がすることになっている。

 つまり、シルヴィ――シルヴェスターとリオ――リオゼールのどちらかが、二人に運ばれてきたあの子の後見になる。


「だったら、シルヴィでしょ。先に居たのはシルヴィだし」

「だが、こいつはお前の銃に興味持ってただろ」

「俺の銃に対しての反応は、銃自体が珍しかったからじゃないの?」

「言い合いは止めて。ここは、医務室なんだから」


 面倒事を押し付け合うのは、この二人の悪い癖だ。


「私は無理よ? ここに来るまで、何人かに見られてたでしょ」


 つまり、あの子が本当に『迷い子』の場合、この二人のどちらかが後見にならないといけないことは決定事項なのだ。


「とりあえず、言語認識はさせてみるけど、この子の教師役は貴方たちがすることね。初対面の人たちより、話せなかったとはいえ、顔見知りの方が良いでしょ」

「ソーデスネ……」


 半分棒読みで返されたけど、この二人ならきっと、面倒を見てくれるだろう。


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