48話 迫る

「コロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロす・・・・・・殺してやる!!」

「く・・・・・・っ!?」


 攻撃の方向が読めない。呪詛の言葉に合わせるように四方八方から強襲する闇の腕、魔手が逃げる帝を追い立てる。近づこうにも、その魔手はパンドラに近づくにつれて濃くなっていく。

 それを焔で防ごうにも、その闇は焔を飲み込むようにして直進し、その勢力は一向に抑まる気配を見せない。避けきれずに掠めたところから魔装が剥ぎ取られる。無防備に露出した肌にその狂爪が迫る。肉を裂かれる、吹き出した血を握力で止め、傷口を焼いて無理に出血を塞ぐ。


「これが、絶望属性・・・・・・か」


 記憶にはある、しかしその本当の威力を肉体が知るのはこれが初めてだ。先程までの戦いは全くもって本気ではなかったのだ。

 失われた魔装を、どこまで意味を成すかは分からないが構築し直し、構える。


 覚醒がどうやって起こるのか、そこまでは明らかにされていない、しかし、この戦いの最中にそれを見出さなければ敗北は必至。出来るかどうかも不明の領域に希望を抱くのは本義ではないものの、されど勝利に関しては最も現実味を帯びている手段も、それであるのだ。

 

「サラド、覚醒ってのはどうやってやるんだ」


 僅かでも可能性があるならば縋りたい、その一心で紋章の中の契約妖精に訊いてみる。


「知らないる。今日初めて聞いたる」

「そうか」


 やはり駄目か。落胆はない。妖精が皆が皆覚醒について知っているならそもそも覚醒が未知の現象であるはずもない。

 過去の記憶に探るのであれば、強い衝動、感情が力を解放させる最後のピースであるのだろう。ではその感情は何処から来るのか。予想がつくが故にそれだけは絶対にあってはならない。それに頼ろうとした瞬間、自分こそ最悪の裏切り者だ。


 いや、激情なんてものは最初から滾っている。心の奥底で棘を突き立てるあの記憶は、それだけで自分のあり方すら歪めてしまいかねない。


 だがそれ以上に、ひとつの強い感情が過去の感情を上回って塗り替えようとしていた。守りたい。さんざん助けられておきながら、力不足を実感しながら厚かましいことこの上ないその思いが、ある。

 それがもうひとつの解。真実。


 仲間を喪って強くなる、ああ、常套手段だ。だけどそんなやり方は物語の中だけで十分だ。


 仲間のために強くなる。仲間を守るためならどこまでも行ける。そのくらいしてみろよ、俺なんか・・・・・・俺を好きでいてくれて、そのためにこんなとこまで来て闘ってくれる彼女たちに出来ることはもう分かりきってるだろ。


 前を向く。視線の先に射止めるのは倒すべき敵、パンドラ。しかしそれはもう恨みの対象ではない。激情に駆られる戦いはもう終わりだ。


「・・・・・・なあ、パンドラ。お前はなんのためにこの世界を壊そうとする? この世界を壊して何がしたい?」

「決まってるでしょ、腐ってるからよ。私の望むものが何一つ手に入らない、どれだけ私が望もうとも横から来たやつがかっさらっていく、私がどれだけ苦しんでもそれを理解するやつはいない! だから私は壊すのよ! 邪魔なもの全部消し去って、私を肯定してくれるものしかない世界を造るために! だから貴方は一番邪魔よ! 消えて! 消えて! 今すぐ消えてよ!!」


 その強烈なまでの独善に、帝が抱いたのは、憐憫。口をついて出た反論は、憐れみであった。


「可哀想なやつだな、お前は」

「・・・・・・なに」

「お前の望む世界は、単なる孤独だよ。人はお前が欲するようにはならない。お前の望む世界ってのはお前一人だけの世界だよ」


「お前に世界は壊させない。俺の仲間たちは奪わせない。お前を止めるよ、パンドラ。俺たちの世界を守るために」


「・・・・・・サラド、俺を信じてくれるか? お前の助力が必要だ」

「任せるる! サラドはつかさのパートナーだる!」

「ふっ、ありがとうな」


 背中を押されて、信頼こそが妖精師の本義だと言った誰かの言葉を思い出す。あれは誰だったか、まあいい、今それが分かったから。

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彼らの常日頃 脱兎 @rabbitanan

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