第3章_3 満月の夜

「ただいま」


「陽斗、遅かったな?

ん、どうした?」


「お客さんなんだけど、そこで会って……足ケガしたから」


「大丈夫ですか?」


「幸世さん、おろしますよ~」


「は、はい、すいません、大丈夫です。

今晩、お世話になります、あっ、もうなっちゃいました」


「いえいえ、いらっしゃ…い」


「親父?ん?

へへへ、幸世さん美人だから固まってるよ」


「陽斗、部屋に…」


「はいはい

親父、ペンションやってるのに愛想ない人なんだ、ごめんねぇ。

幸世さん、どうぞ」


「ありがとう」




その夜、食事の後、陽斗くんといろんな話をした


陽斗くんは私より2つ年下だった




話す程に心を許し、自然とお互い気を遣わず話すようになってた



東京での仕事のこと

陽斗くんのお母様も亡くなられてるということ

お母様が亡くなられてからこの地に引っ越してきたこと


そして、あの木のこと




「あの木、幸世さんのお母さん好きだったの?」



「うん、いつもね、家族で毎年ここに来てたの。

いつだったか……

夜中に目を覚ましたらお母さんがいなくて、慌てて部屋を出たら、出掛けようとしてたの


何処行くの?って聞いたら、星を見に行くのって。私も行きたいって言ったら、お父さんには内緒よって連れて行ってくれたの」



「ふーん」



「真っ暗な山道だけど、星がいっぱいで少し明るく見えた。

あの木の下に着くと懐かしそうに見上げてた


それから、毎年、ここに来ると私は夜中にお母さんと星を見に行ってたの」



「そっかぁ、実はあの木ね、再開発で切られることになってたんだ。

でも、切ろうとすると天候が荒れたり、

重機が故障したり、作業員がケガしたりして何度も断念して。

そのうち、あの木を切ると良くないことでも起こるんじゃないかって、1本だけ残されることになったらしいんだ」



「そうなんだぁ、

良かった。私にとっても思い出の木だから」



「うん、良かったね」




顔を覗きこむように傾げた彼の顔があまりにも優しくて…

心にしまってた母のことを思い、鼻の奥がツンとした



「幸世さん?」



「ごめんなさい

何か、思い出しちゃった」



ポロポロと綺麗な涙を流す幸世さんを見てられなくて…

慌てて、シャツの袖口で涙を拭いた



「あっ、俺、ごめん、どうしていいかわかんなくて。こんなんで…」



「フフ、いいのよ。陽斗くん…優しいね 」




泣き笑いした彼女の光る睫毛を見て、俺はもっと、ずっと、このままいたいと単純にそう思ってた




満月の明るい夜

静まり返った山に少し弾んだ二人の声が響いてた



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