第3章(最終章)

第3章(最終章)_1 秋風のような人

魂はいつまでも生き続ける

そんな神話のようなこと…あるはずないって思ってた



でも、

あの場所が…教えてくれたんだ




幼い頃から毎年、冬になると出掛けていた場所。

今年、久しぶりに訪れた



母がいつも懐かしそうに見上げてた大きな木は変わらずそこにあった



私が高校生に入った春

母は空へと旅立った



そして、ここへも、それ以来、訪れることはなかった






山は赤や黄色に色づき始め

都会とは違い、風がヒンヤリとして、

空気が澄んでいた



「お母さん、着いたよ。久しぶりだね」




見上げる木はまるで、私を待っていてくれたように風にその葉を揺らした




「はぁー、気持ちいい」



草の上に寝転んで思いっきり伸びをし、ゆっくり、流れる雲を見てると眠たくなってきて……気が付くと瞼を閉じていた




「ねぇ、大丈夫?」


身体を揺すられて目が覚めた


「良かったぁ。寝てたの?」


「ふぁー、はい」


「びっくりするじゃん、

こんなとこで寝たら死んじゃうよ」


「死なないでしょう?」


「わかってないなぁ。日が暮れると、ほんとに、ヤバイんだから」



本気で心配してくれてる彼の困った顔が何だか可愛くて、失礼だけど少し可笑しくなった



「フフフ、そうですね

…ありがとうございます」



草を払って立ち上がってお辞儀をすると、

その人はとっても優しい顔で笑った



「旅行ですか?」


「はい」


「じゃ、気を付けて」



あっさりと立ち去ろうとした彼を咄嗟に呼び止めてしまった



「あっ、あの…

こっちの人ですか?」


「実家がね。ほら、あそこ」



指差す先には私が今夜泊まるペンション



「えー、あのペンションですか?

私、今晩お世話になります」



「そうなんですね。

俺、東京で仕事してるんだけど、

休みがとれたから、帰ってきてるんです

じゃあ、一緒に帰りますか?」



「は、はい」




初めて会ったとは思えない安心感



彼との出会いはまるで、柔らかい秋風がすーっと全身を纏ってくれるような、不思議な感覚だった


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