第2章_9 ずっと…


俺はゆっくりと話始めた



大学の時のノンとの出会い


リュウのこと


ノンの父親の死



そして、二人の最後の日のこと



気が付くと、俺の頬は濡れていた



ノンのこと、

こんなにも人に話したことは初めてだった



心の奥の方にしまいこんで、鍵をかけてたノンへの思いを今になって何故、理子に話したのか、自分でもわからない




ノンと最後に交わした握手

いつまでもあの時の感覚が消えなかった



でも、今、

その俺の右手をしっかり握る理子の温もり


すがるような気持ちで俺はその手を握り返した




「理子、こんなこと聞かせて、悪いなっ」



「うううん」



包み込むように俺を抱きしめた理子





ノンと離れて以来、

こんな安らぎを感じたことはなかった




「カズの大切な人なんだね…ノンさんって」



そう穏やかに言う理子を強く抱きしめキスをした



お互い涙でボロボロになった顔


額を合わせて、もう一度どちらともなく唇を合わせた



ソファに押し倒し、彼女を見下ろすと、細い腕を伸ばして、俺の頬を撫で微笑んだ


涙の跡から、首筋へ唇を這わせ、肩…胸へ


「はぁぁ、やっ」


恥ずかしそうに俺の肩を押して見つめる潤んだ瞳は余計に欲情をかきたてる



「理子…抱かせて」


返事はないけれど、力が緩んだ手が答え


彼女の熱い中へと……




「理子…愛してる」






ノンと最後に行ったスキー場


お互い、思い出になる物は残さないでおこうと何も買わなかった



たった1枚残った


その日が記されたリフト券



それを俺は捨てれずにいたんだ




いつまでも思い出にすがりついて、生きてきた




でも、今、彼女を抱いた時

俺の中は

理子でいっぱいになってた







心の奥底にしまいこんでいたものを理子にすべて、見せた


体がすーっと軽くような気がした




強がって、平気な顔をしてるくせに、ほんとは弱虫で繊細な理子



いつまでも立ち止まったままで目の前にいるたった1人の女も幸せに出来ずにいた



腕の中で眠る理子の泣き腫らした瞼を親指でなぞり、静かに抱きしめた




隣に温もりがある

些細なことだけど、

この幸せを守っていきたいと思った





理子は目覚めると俺を見上げて言った


「ねぇ、カズ…ギュッてして」


俺は彼女を強く包み込んだ


「嬉しい」



小さな声で呟いた理子の髪を撫でながら言った




「…理子……俺んとこくるか?」



「もう、一緒に住んでるじゃない?」



少し頭を傾げて俺を見た彼女から目をそらした



「いやっ、だから、ずっと、一生…ここにいるか?」


もう一度理子を見つめた



「俺の側にいてくれるか?」



「うん…ずーっといる」



そして、彼女はしっかりとした口調で言った




「カズの中でノンさんって人が生き続けてる。

それを無理に消してほしいとは思わない。


全部、ひっくるめて、カズなんだと思う。


あなたが今までどんな道を歩いてきたか、すべて知りたいとも思わない


……これから、歩いていく道の方がずっと知りたいよ」




理子の瞳がキラキラと輝いて眩しかった




「ありがとう、理子…俺の側から離れんなよ」



「ぅん」




俺の胸が理子の涙で濡れた




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