第2章_5 似てる…

お互い何も話さず歩いた


強引に掴まれた彼の手は徐々に力が抜けていき、私の手を優しく包んでいた



この人、こんなにあったかい手…してたんだ



斜め前を歩く彼の顔を見上げた




「あのー、何処まで行くんですか?」


「あっ、わりぃ、何にも考えてなかった」


慌てて、手を離した彼が少年のように恥ずかしそうにそっぽ向いた


「フフフっ、なぁーんか、いつもと違いますね」


ちょっと意地悪して畑野さんの顔を覗きこんだ


「やめろ、見んな。

ってか、ちゃんと笑えんじゃん。

いつも、作り笑いばっかりで人形みたいだぞ」


「ひどーい、営業スマイルです。畑野さんこそ、照れてるんですかぁ?」


「バカにしてんのか(笑)」


「してませんよ~。畑野さんの笑った顔も初めては見ました。

……ひょっとして、私達、似てるかもしれませんね」




無意識に彼女の手を引っ張ってた。

細い指は強く握ると折れそうで、

でも、それでいて、不思議とその小さな温もりは俺のイラつく気持ちを落ち着かせてくれた



似てるかもしれない……

同じこと、感じてたんだ


何故だか少し心が跳ねた




「似てるかぁ…かもな」


「でしょ?」




繁華街から少し離れた河川敷

夜風が少し冷たくて

空には三日月がぼんやり光ってた


見上げる彼の横顔がさっきとは別人のように穏やかで、思わず見とれてしまった


数センチしか離れていないこの手にもう一度触れたい…と思ってたけど……



「さっ、帰るぞ」


「帰るんですかー?」


「帰るよ。明日も仕事だろ?」


「わかりましたぁ。でも…また」


「ん?」


「また…会えますか?」



咄嗟に出た言葉

こんな風に素直になれるなんて…



「そうだなぁ、薬…飲まないなら」


「……わかりました」


「よし、送るよ」



畑野さんは私の頭をポンポンとして、また、優しく笑った




彼の笑顔が私の荒んだ心の中にすーっと光を照らしてくれたようだった



いつも

焦って

急いで

駆け足でいた私に

ゆっくり、歩けと言ってくれてるようだった


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る