第2章_4 偽りの自分


「おはようございます。」


「おっ、武田、おはよう」


「部長、早速なんですが、今晩あいてますか?」


「何だよ、いきなり」


「この間のモデル達と食事に行くんですよ~。部長も来てくださいよ」


「俺はいいよ」


「そんなこと言わずに。部長も独身じゃないですかぁ。それに…えっと、給料日前だし…」


「はぁ?お前ら俺の財布あてにしてんのか?」


「お願いしますよ~。モデル相手に下手な店行けないじゃないですかぁ」


「仕方ないなぁ。じゃ、俺はすぐ帰るからな」


「ありがとうございます!今日も頑張ります‼」




何だよ調子のいいやつだなぁ


そう言いながらも、あの人形…来るのかな?と柄にもなく思ってた




「武田くーん、畑野部長と合コンー?」


「お前聞いてたのか?いちいち言いふらすなよ」



同期の河上。

やたら、俺のすることに口を出してくる



「わかってるってぇ。でもさぁ、部長に奢ってもらおうなんて、ちっさいなぁ。武田」


「うるさいなぁ。違うんだって」


「何が違うの?」


「畑野部長って、何か陰があるって言うか、帰国してから、まだよく話すようになったんだけど、あっちでいる時はひっでぇもんで。尖ってるっていうか、バリア張ってるっていうか」


「そうなんだ。…いろいろあったんじゃないの?」


「たぶんな。きっと、忘れられない思いを抱えているような気がするんだ。少しでも楽になってもらいたいと思って」


「武田ぁ、いいとこあるじゃないー!」


「だろっ?俺…部長には世話になってるから」




畑野部長がいったい何にこだわっているか?

わからない



でも、ふとした時に見せる淋しげな表情がいつも気になってた




心の中に、誰かがいるんだろう



そして、

その誰かが強く色濃く、息をしているんだろう


勝手な想像だけど、俺はそう感じてた






「部長、早く行きますよ」


「まだ、仕事終わらないから先に行っといてくれ」


「えー、絶対来てくださいよね」


「わかってるって。必ず行くから」




仕事を終えて、武田が言ってた店に遅れて行った



奥の個室で盛り上がってる声が聞こえる


その中に…理子もいた




「あっ、部長、お疲れ様です」


「武田、会社出たら部長はいいよ」


「そうでしたね。畑野さん。どうぞ、こっちです」



武田に案内されるところに腰をおろすと隣に理子がいた



「先日はありがとうございました」


彼女の方から話始めた


「いえ、うちの社員が失礼なことをして、申し訳ないです」



そんなありきたりの挨拶から始まり、他愛のない会話が続く


酒も進み、どうやら、理子も少し酔ってきたようで…



「畑野さんって、変わってますよね」


「俺が?どこが?」


(酔ってんのか、めんどくせぇなぁ)


「何でそんなにバリアみたいなもの作ってるんですか?

ここからは入ってくるな!みたいなの。

そんなんじゃ、周りにいる人達も疲れますよね」


「そんな風に見えますか?あなたにわかるんですか?」


「あっ、そうですよねぇ。ごめんなさい」


(むかつく、こいつ、気分悪い)


「武田、俺帰るから。これで後やっとけ」



財布から金を出して武田に渡すとさっさと店を出たが、すぐにスマホを忘れたことに気付いた


(戻るの、ダルいけど仕方ないかぁ)




店の部屋に戻ると彼女はいなかった


さっさと、忘れ物を手に取り、足早に出ようとすると店の隅で理子が薬を飲んでる



「ちょっと、お前、何飲んでんだ?酔ってんだから、薬はやめといた方が…」



持っていた薬の箱

下剤?



「何でこんなもん」


「仕方ないの。私達はこういうことはよくするんです」


「そこまでしなきゃいけないのか?」


「若いモデル達がどんどん、上がってきて、いつおろされるかわからない。スタイルを保つのは最低条件なんです」


「そんなことまでしなきゃ、出来ない仕事なら辞めてしまえよ」


「私はこの世界で生きていきたいの。あなたにはわからないわ」



鋭い目でそう言い放った彼女



「どうして、そんなに自分を偽るようなことするんだ?素直になりゃいいだろ」


「これが私です」


「いやっ、違うな」



震えてた手に俺が気付かなかったとでも思ってるのか……


俺は思わずその手を掴み、歩き出した



「ちょっ、ちょっと何するの?何処行くの?」



そんなこと聞かれても、自分でも何でこんなことしてるか、わからなかった





自分を偽って生きている




俺と同じ匂いがした


彼女を見てるとそう感じてた

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