第1章-11 カズの温もり


俺は混乱していた


確かにノンのことはずっと、心の中に居続けてた



でも……

リュウと幸せそうにしてるノンを見て、これで良かったんだと自分に言い聞かせてきたのかもしれない



あの時、頭元に俺が置いた飴玉をノンがまだ持っていたと聞いて


胸の中心が熱くなった



なんなんだよ、アイツ




次の日

リュウが言ってた○○駅のホームへ自然と足が向いた


今日はいないだろ

そう思いながら電車を降りると…



ホームの端のベンチに少し痩せた笑顔が消えてしまったノンの姿があった



俺は大きく息を吸って、ゆっくり近寄ると静かに彼女の横に座った




「え?カズ、どうしたの?」


目を真ん丸にしてびっくりするノン


「べっつにぃー、ちょっと、休憩しよっかなって座ってるだけ。

ノンこそ、何、泣いてんだよ」



「泣いてなんかないもん」


手にしっかり何かを握っているようだったが、俺は見ないふりをした



「強がり言うなよ。思いっきり泣けばいい。俺が…ここにいてやるから。我慢するな、なっ」



そう言い終わると、途端にノンの顔が曇って涙がとめどなく溢れた



俺は真っ直ぐに前を見た


どれほど強く抱きしめたいと思ったことか…。

でも、今はそうしてはいけない気がして。




左肩にあたるノンの震える肩の温もりが愛しくて、たまらなかった






私が泣き止むまで、カズは黙ったまま、じっと動かず、隣にいてくれた



言葉は何もないけれど、右肩から伝わるカズの体温が

『ノン、大丈夫だよ』って優しく語りかけてくれてるようだった



少しの時間が流れた




「私、帰るね!じゃ」


勢いよく立ち上がった


「はぁ?勝手なヤツだなぁ、送るよ」


「いいよー、1人で大丈夫」



手を振って歩き出すと彼は慌てて私の腕を掴んだ



「ノン……心配なんだ、送るよ」



カズがいつもとは違う柔らかな口調であまりにも真剣に言うので私は素直に返事した



「うん、わかった。ありがとう」






夕方の30分二人で肩を並べて座り、

駅から手も繋がずゆっくりと歩く



たった、それだけのこと、

それだけのことだったけど……

私には大切な時間だった



今までずっと溜めていた涙を流し、重たくなっていた心が少しずつ軽くなっていった




カズが隣にいてくれるだけで素直になれた


あったかかった





そんな毎日がしばらく続き、私は次第に泣かなくなってた



カズと一緒に

笑えてた





季節は秋の終わりに近付き、

私達は最後のシーズンを迎えようとしていた

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