第1章-10 大切なモノ


ノンが悲しい時はいつでも側にいようと思ってた


泣いてる時は涙を拭ってやろうと思ってた



でも、最近のノンは俺の顔を辛そうに見つめる



俺は全然ノンの力になれてない

守ってやると決めたのに守れていない



そんなことを考えながら、バイト先に向かう電車に揺られていた



ノンの最寄りの駅を通過しようとした時、

ホームのベンチに座る彼女が見えた

俺は慌てて、飛び降りた



足早にノンの側に行こうとしたが、

ただ、呆然と一点を見つめる姿に思わず立ち止まった




すると、鞄の中から、何かを取り出した


何だろ?


それを大事そうに両手で握りしめると

その手を額に押しあてて、声を殺して泣いている




ノンにとって、父との別れは俺には想像すら出来ないほどの辛く悲しい出来事だったんだろうと改めて思った




どうしたら、ノンを笑顔に出来るんだろう 。

そう思っても、彼女に触れることもせず、立ち尽くすことしか出来なかった




ひとしきり泣くと涙を拭って、フーッと深呼吸をし、握りしめていたモノを直そうとした




ノンが握りしめていたモノ




それは飴玉だった




飴玉?


俺はその飴玉がどんな意味を持つのか知らなかった

……けど、それを見た瞬間

ノンを救えるのはカズしかいないんじゃないか何故か直感した






「カズ、ちょっと話あるんだけど、出てこれないか?」


「何だよ、リュウ、今、俺、デート中」


「いいから、すぐ来いよ。部室で待ってる」


「仕方ないなあ。わかったよ」


薄暗くなった部室でカズを待った





「リュウ、何だよ?」



「カズ、お前、ノンが好きか?」



「はぁ?いきなり、呼び出して急にそんなこと聞くなよ」



「急な話でもないだろ?どう見てもお前らは思い合ってる」



「ノンはリュウの女だろ!」


「そうだ、誰にも渡したくない」


「なら……」




「でも、俺じゃダメなんだ。アイツを笑顔に出来ないんだ。カズ、お前じゃないと」



カズは大きく息を吸って話始めた


「ノンのこと…大切なんだ。

こんな風に思った人は初めてなんだよ


触れてしまうと、壊してしまいそうで、大事にしなきゃって……思うんだ


他の女とは全く違って、

好きとか嫌いとか、そんな簡単な言葉じゃない。

ノンは………本当に大切なんだよ」



カズは今まで胸の奥にしまってた気持ちを一気に吐き出したようだ


目には光るものがあった



「カズ、お前何で、それ、ノンに直接、言わねぇんだよ」



「俺は……リュウの方がノンを幸せに出来ると思って」



「ふざけんなよ。お前がちゃんと伝えないから、結局はノンを泣かせてるんだぞ。

カズ、思ってることはちゃんと言葉にして伝えないと。


ノンの心の深いところに、カズ、お前がいつもいる。俺はずっとノンを見てきたからわかる。


アイツ…○○駅のホームのベンチに座って泣いてた。たぶん、家に帰る前に気持ちを落ち付かせる為に毎日いるんじゃないかな。

……飴玉を握りしめて」



「飴玉?」



「そうだ。やっぱり、カズは飴玉のこと知ってるんだな?」



「ああ」



「とにかく、明日も駅にいると思う。

カズ、行ってやれ」



「リュウ、いいのかよ?」



「俺はノンが笑顔になればそれでいいんだ」




これ以上カズと話すとやっぱり、ノンを離したくなるなりそうで、

カズが次の言葉を発する前に俺は部室を急いで出た




カズは一人で何を考えただろう



誰もいないcampusを歩く



足元に涙が一粒二粒落ちた


思わず、空を仰いだ




真っ黒な空には星はなく、雲に隠れた細い三日月が何となく見える



ポタポタと雨が降り始めた




何だよ、空まで泣いてんじゃん




真上を向いた顔に雨が落ちて涙と混じった




これで良かったんだ。


そうだよな、ノン


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