第1章-9 グチャグチャな気持ち

3回生の秋


私にとって悲しい出来事が突然、訪れた


父が病に倒れ、深刻な状態に。



今まで、何不自由なく、大切に育ててもらった私にとってあまりにも残酷な宣告だった



母も妹も泣き暮らす日々。

父は入退院を繰り返した



こんな時、私に出来ること。

暗い顔をせず、家族に笑顔をみせることしかなかった


私には泣ける場所がなかった


家でも大学でも…リュウの前でさえも



リュウな毎日電話をくれ、会いに来てくれた


そんな彼に、私は冷たくあたってしまっていた



「リュウの親は元気でしょ?だから、私の気持ちなんかわかるはずない」


完全にひねくれてた。

最低だった


私はどこかで、それでも、リュウは受け止めてくれると思ってた


……でも、

私を支え続けることは学生の彼にはあまりにも重すぎたんだね



私はリュウをどんどん追い込んでしまった




「もう……来てくれなくていい

私はこれ以上、リュウを傷つけなくないの」



「ノンがしたいようにしていいよ」

って、悲しく微笑んでた




ごめんなさい

ごめんなさい

……ごめんなさい



私はリュウに甘え過ぎてた

リュウはこんな私のこと精一杯支えようとしてくれてたのに。



病院の入り口で泣いている私を見つけ、車椅子で父がゆっくりと近寄ってきた


私は慌てて涙を拭き、車椅子の高さにしゃがんで笑って見せた



父は私の頭を痩せ細った手で優しく撫でながら言った


「のぞみ…泣いてもいいんだよ。のぞみはいっつも、周りの人に気を使って無理してる。お父さんにはよーくわかってるよ。小さい頃からそうだったなぁ」



「そんなことない。お父さん、私は悪い子なの」



「のぞみは悪い子なんかじゃない。お父さんの自慢の娘だよ」



車椅子にすがりついて声をあげて泣いた


私が泣き止むまで父はずっと背中をさすってくれた


やっと……泣けた


背中に感じる父の掌が我慢しなくていい

大丈夫だよって言ってくれてるようだった




父の病状はその後も、依然として油断出来ない状態が続き、3回目の冬、私はスキー場には行かなかった



リュウからは連絡はなかった


優しすぎるリュウは私が来ないでって言った気持ちを尊重しようとしてくれたていたに違いなかった





桜が散り

暑い季節を迎えようとした頃


父は旅立った




葬儀には部の友達、もちろん、リュウ、そしてカズも来てくれた




「ノン、何かあったらいつでも言えよ」

リュウはそう言ってくれたけど、もう、私は彼といることが辛くなってた



リュウは無理してる、我慢してる

そればかり思って胸が苦しくなる

自分を責めてしまう


彼といる時間が安らぎだと思っていたのに、そうではなくなってた




カズはそんなリュウの後ろから一瞬、私の方を見たかと思うと、すぐに斜め下に視線を落とした


私とは一言も話すことはなかったカズだったけど、

いつまでも、いつまでも父の遺影に手を合わせていた




お父さん……カズは何を話してたの?




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