第1章-8 心の居場所


付き合い始めた頃、

リュウはどこか、自信のない感じだった


きっと、カズのことを気にしてたんだろうと思う



でも、あの日以来、抱き合う度に少しずつ独占欲みたいなものが出てきたようだった


男の人ってそんなものなのかなぁ





そして、2回生のシーズン


今年もカズと一緒に過ごすことになるんだろう


もう、何のわだかまりもない


私はリュウの彼女なんだし。




でも、

その年…カズは来なかった



カズのスキーの技術は部の中でも群を抜いてた。

別のスキー場から誘いがあったようで、今年は違う場所に行くことになってた



割りきったと思っていた私だったが、どこかホッとしている自分がいた





シーズンに入り、相変わらず、私は宿の仕事と練習で毎日クタクタだった


近くの宿にいるリュウが時々、会いに来てくれたが、私は疲れきってしまって気が付くと彼の肩にもたれて眠ってた




夕方、窓から見えるキラキラした雪道を見ると…

「ノン!」

と初めて呼んだカズの声を思い出す

抱きしめられた温もりを。



きっと、深々と降り積もる雪が私の心の奥を隠してしまっていたのかもしれない




あっという間に2回生のシーズンが終わり、

雪が溶け、私達は3回生になった



その頃

カズと話すことも少なくなってた





リュウはいつも優しい、優しすぎる


私の言うことは何でも笑って聞いてくれるし、喧嘩もしたことない


周りの友達は最高な彼だね!って羨ましがるけど、

リュウだって、腹が立つことだってあるだろうし、譲れないこともあるはず。




「ねぇ、リュウ?リュウは私のことむかつくって思ったことない?」


「そんなのあるわけないじゃん」


「そっかぁ、イライラしたりしない?」


「しないよ。何でそんなこと聞くの?」


「いやっ、リュウはいっつも優しいなぁっと思って」


「だって、ノンに惚れてるからな。ほら、あれだよ、惚れた弱みってやつ?」




1回生の冬


カズにいきなり、

「お前見てたら、イライラすんだよ」と言われたことを思い出してた


また、カズが出てくる



頭の中に浮かんだアイツの顔を消したくて

リュウの小指をキュッと握った


私の大好きな大きな手はしっかりと握り返してくれる


心細くなった思いをまるごと包んでくれた



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