おしるこをHOTで

 学校の自動販売機には、何故かおしるこが売られている。冬休み以外に需要が在るのか、謎でしかない――七不思議にカウントしても良い――代物だ。


 そのおしるこが、冷めた。


 買ってからさほど時間は経っていないのに、冷めた。少しむかっとして、110円返せ、と独り言ちる。おしるこは、温かくなきゃ、意味が無い。


 初めに需要が無いとは言ったものの、俺はこの缶ジュース(?)が好きだった。単純に、その味が。――と言うより、おしるこが。


 だから、冷めてしまっても普通に飲むのだが。



 昨日は冷ましてしまったから、今日は温かいうちに飲もう。そう思いつつ、ヘビーリピーターの俺はまたおしるこを買った。


 プルタブを引いて、小豆の甘い香りを吸い込む。そして、口をつけて、純日本風の味を愉しんでいると――。



 自動販売機が、爆散した。



 突然のことだった。

 爆風が顔を撫でる。――それは、おしるこより圧倒的に熱かった。



「………………」


 俺は、“開いた口が塞がらない”の意味を実感した。唖然。我に返った頃には、やっぱりおしるこは冷めていた。


 ぷすぷすと燃える、自動販売機の残骸。飛び散ったジュースやコーヒー。しゅわしゅわと音を立てているので、炭酸系も無事ではなかったのだろう。


 そんな中で、何故かおしるこだけは無事だった。――おしるこ強ぇ。



 冷めたおしるこを啜りながら、やっぱりおしるこは七不思議にカウントしても良いと思った。




 ――今日も飲むのはおしるこだ。

 たった1日で自販機は何事も無かったかのように元通りである。鎮座している筐体は、しかし、何事も無かった訳ではない証拠に新品だった。


 そして、昨日の無敵のおしるこを買う。

 無敵のおしるこを飲んだら、レ〇ドブルのように翼でも授かって無敵になるのだろうか。――いや、ならない。特に古典で大事な“反語”という奴だ。

 コマーシャルのように翼を授けられるか、甘味を楽しみつつ試してみようと思った。そして、口をつける。


 けれど、そんな簡単に無敵になったら……、自分で自分が怖い。



 と、思っていたのに。



 まさか、また自動販売機が爆散するとは。




 確か……ドカッ、と音がして。


 嫌な予感がした。


 事態を把握する前に熱風が髪を嬲り。


 炎が見えて、ようやく、自販機がまた爆散したのだと理解した。

 煤は被っていないから、漫画やアニメで見る“爆発に巻き込まれた人”のようにはならなかった。ただ、“暴風に巻き込まれた人”にはなった。


 そして、やっぱりおしるこの缶だけは無事だった。


 しかし、今度は「おしるこ強ぇ」とは思わなかった。

 2日のうちに2度も学校の備品を壊してしまった(?)ことが、とても後ろめたかった。


 もう、おしるこ飲むの控えようかな……。




 昨日、おしるこは控えると思ったのに、また買ってしまった。

 案の定自販機は新品に戻っていたし、習慣は簡単には抜けないのである。自販機を元に戻さなければ、俺だっておしるこ買わない。


 2日間を振り返ってみた。

 よくわからないけれど、邪念があるから駄目なんだと思った。理由は知らないし、俺は直感を信じたい気分だったから、理由なんてどうでも良かった。



 精神を統一して、無の状態になる。

 心の落ち着く甘さを、口内で転がす。確かに邪念は無かった。



 そして、自動販売機は、爆散しなかった。


 お? と思った。


 そうか、邪念を持たずに飲めば良いのか。俺は、ひとつ教訓を得た。



 家に帰って、気づいた。


「……なんだこいつ?」



 赤い火が、床を這っていた。

 試しに、勉強せずに挑んで玉砕した小テストを、そこに投げてみる。――燃えた。そして、火は少し小さくなった。


 けれど床は燃えていないし、俺以外に火は見えていないようだった。


 と、いうことは――――。



「俺の意思で、操れるのか……?」



 言ってから、痛い独り言だな、と気づいた。小説フィクションかよ。



 何か開花しちゃったよ、と苦笑いした。とはいえ、ずっと後ろを這ってくるのもストーキングのようで鬱陶しい。

 とりあえず、近くにあった小瓶を開けて、床に倒して置いてみた。こっちに来い。


 火は素直に瓶に入った。栓をしてから、酸素尽きたら消えてしまうかもしれないと思い至る。


 ――杞憂だった。

 現実の物でない炎に、現実の理は通用しないようだ。そもそも酸素を消化しているのかも定かじゃない。



 小瓶入りの火に、何故か愛着が湧いてしまったので――きっと火が素直だったからだろう――、持ち歩くことにした。

 そうして初めてわかったことだが、カイロの代わりにもなって便利だし、おしるこを飲む度にが現れるし、瓶に入れて持ち歩くのは我ながら名案だった。



 小瓶1つには収まりきらないくらい、俺はおしるこを飲み続けた。だから自室には火の入った瓶が並んでいる。

 そろそろ、キャンプファイアでもできるのではなかろうか。


 火と共に過ごしていて、わかったことがあった。――



 瓶も多くなってきたことだし、消費しようかと思い始めた。さて、何を燃やそうか。



 冬だし、餅でも焼いて――ああ、きなこもちが食べたいな。


 俺は金網と菜箸に餅ときなこをを持ってくるべく、自室の扉を開ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超能力系スイーツ男子 月緒 桜樹 @Luna-cauda-0318

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ