第55話夢の浮橋2(最終)

天空で老いたる源氏と柏木が話しています。





「この後、薫はすごすごと引き返す。ほかに男が


おるんじゃないか?と思ったりする。もう俗聖


どころか俗物丸出しじゃ」





「匂宮、だったらどうでしょうね?」


「そりゃあ、真夜中に忍び込んでかっさらって行くかもな」


「やりかねませんね」





「それに引き換え浮舟のなんと崇高なことよ」


「どこか紫式部の達観が感じられますね」


「男のあほさ加減もな」





「出家したからといってすぐに悟りの境地にとは思われま


せんが?」





「そりゃそうじゃ。尼寺の老尼の姿は実に見苦しく紫式部は書


いている。浮舟は身を投げて供養したようなもんじゃからかな」





「このままこの物語は終わってしまうんでしょうか?」


「さあまだ生きてる生身の人間じゃから煩悩即菩提とはいくまいよ」


「煩悩即煩悩?」


「それが現実よ。だから楽しいのじゃ。衆生所遊楽というではないか」





「ということはこれからが面白くなると?」


「まさにその通り。伝教大師も末法はなはだ近きにありと憧れて


おられた。その末法ももうすぐじゃ。ははははははは」





老いたる源氏の笑い声が天空に遠く響き渡りました。





                           ーーー完ーーー

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老いたる源氏 きりもんじ @kirimonji

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