第11話

「悩み事はないかい?」


普段からなにかと私のことを心配かけてくれる彼。


「その…私少し匂いませんか」


私は前々からどうも気になって仕方ないことを話した。


「男子と違って、女の子らしい良い匂いはするよ」


父が言えばセクハラに感じてしまうのに、彼が言うとそうでもないのは何故だろう。

言葉を選んで、優しく使う業平。


「今はお世辞はいいですよ。そのどうしても気になってしまって…」


お風呂に入っていない為、体臭が気になる。

自分の匂いはもしかすれば酷い状態かもしれない。

しかし慣れてしまったので分からない。


それに比べると、業平からは良い匂いがした。

それも花の香りのような、お香のような特別な香り。


「なら、私の伽羅をあげるよ」


彼は来ている衣冠(男性貴族の正装)の袖から小さな巾着袋を取り出して、私に手渡した。


どうやら、匂いの正体はこの袋らしい。



「私は花の香りが好きなんだよ。梅香が気に入るといいんだけれど」


「とっても嬉しいです。ありがとうございます」



間髪を入れず、私は礼を言った。

胸がくすぐったい。


何故ならその匂いは、どこか懐かしい、好みのものだったから。




前までは彼を根っから信用出来ないでいたけれど、この親切には素直に嬉しかった。



現代にいた頃と何か違う感覚。



悩みを相談出来る人がいるだけで、こんなに心持ちが変わるのかと、最近では強く感じていた。

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