第12話

「業平様は大学寮にどういった御用で?」


歌人として有名だが、本来の彼の仕事は右近衛大将。

つまり武官である。


おおよそ想像はつくが、用というのは犯罪の取り締まり関連だろう。


彼に向き直る。

すると彼は顔を渋めた。


「最近、京に赤鬼が出ると噂が立ってるのは知ってる?」


「接吻(キス)されると喉が焼けるとかなんとか…」


「その犯人を探していてね」



そんな非科学的なもの、ただの噂に決まっている。

しかし、馬鹿正直にそんなものを信じている人は少なくない。


私はむしろその事実に唖然とした。



「鬼を信じているんですか?」


「まさか。だけど、どうして複数名にそんなことが出来たのか不思議でね」



どうやら、妖なんていないと言う人間も少数だがいるらしい。

私は少しほっとした。



噂では三条の家に鬼が出て、1人残らず皆が倒れたと聞いている。

全員が漏れなく倒れたとなると、食中毒や飛沫による集団の感染症だろうか。


この時代には医者はいるが、どうも病の知識が乏しいらしい。

人が倒れると、真っ先に坊主を呼ぶと言うのだ。


阿呆かと思う。




「何か進展はあったんですか?」


「うん…、それがどうもお手上げでね」



この話を聞くと、いかに現代の警察が有能だったのかが分かる。



「症状はどのようなものなんですか?」


「嘔吐や腹痛、それと皮膚がただれていたり…かな。それと、皆喉が焼けているんだよね」



集団で。

そんなの、現代のニュースでよく見かける言葉じゃないか。



「毒の可能性はありませんか」



それも喉。



「それに口内が焼けてるなら、食べ物が飲み物とか……」


最後まで言い終わる前に、在原業平は私の言葉を遮って声を上げた。


「君は天才だ!」


そして彼に手を引かれるまま、私は大学寮を後にした。

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