第8話

(業平視点です)



京都、左京三条殿の邸宅にて。


「業平様、最近この都には赤鬼が出没しているとご存知ですか?」


「赤鬼?」


「なんでも、触れると皮膚がただれて口づけをされると喉が焼けてしまうのだそうです」



御簾の内側で夜伽を語る若い男女が1組。



男の名は在原業平、右近衛権中将。

整った顔立ちをしており、京一の美男と都では騒がれている。



「私が鬼ならば、貴女の唇を焼ける程味わいたいですね」


耳元で色っぽく囁かれ、女は顔を赤らめた。



「業平様…っ」



唇を奪う男。

初めは優しく、そして情熱的に。



しかし邪魔が突然入った。


十二単を優しく、丁寧に解こうとしていた所で、廊下の方から女の悲鳴がした。


何事だろうか。

男は直ぐに出ていって状況を確認したいが、今はお忍びで来ているためそれをぐっと堪える。



それから直ぐに、人が集まる音が聞こえ、次いで連絡が回って来た。


「夕顔さま、この三条の屋敷に赤鬼が出ました」



男はそれを聴くなり、女の手引きによって、そっと屋敷を抜け出した。




しかし次の日。

三条の屋敷の者が例外を残さず一斉に倒れたと伝達があった。


『赤鬼に襲われた』


都では今、その話が至る所で囁かれている。

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