エピローグ―採用面接

 マラソン大会後、サルトル所長のもとに各方面から情報が集まってきていた。


 研修医Q太郎は診療態度が変わって上から目線でなくなって、患者さんの生活や生き方を聞き出してナラティブな医療を考える努力をするようになったらしい。診療時間が長くなったと、師長や事務長からクレームが出ているが、長い目で見てやって欲しい。彼は成長期、自分で感じて考えて成長していくタイプだと思うので、見守りつつ支えてやってほしい、と所長は管理会議で訴えている。


 「無駄なことや疲れることは嫌いだ」と言っていたタマちゃんも陰で努力してステップアップの資格をとろうとしているらしいと風の便りに聞いていた。内緒なようなので口には出さないが応援しいる。あのガッツがあればいけるぜ!と、所長はドスコイ師長に話していたらしい。


 そんなある日、年も明けて2月。クリニックの通所介護に応募があったある男性の、新規採用採用面接が行われた。

古地小太郎フルチコタロウ 30歳、介護福祉士」と、履歴書には書いてあった。

 茶髪にやぼったいハートのピアス、ちゃらけた雰囲気に、ドスコイ師長こと須藤看護師長もまりあ事務長も、古典的な表現だけど「眉をひそめて」戸惑っているのが見え見えだった。

「苗字と名前の間に『ん』がなくてよかったですね。」と言いながら採用許可のサインをしたサルトル所長は「あのフルチンくんだな」とすぐに気づいていた。そしてつぶやいた。

「彼は絶対にうちの、このクリニックの財産になると思うよ」

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「制服で走ろう!マラソン大会」参戦記 走るサルトル @Dr_sartre

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