第3話 主従

「そうか。俺は『木林 森彩(きばやし しんや)』って言うんだ。21歳だ。シンヤって呼んでくれていい」

「ええっ、ご主人さまって年下だったんですね。可愛い」

 普通、人間で200歳も生きられねーつうの。

「それじゃ、日が昇ったら街へ行ってみようか」

「いえ、我々悪魔は日が昇ると、魔法の力が極端に落ちるので、今のうちに移動する方がいいです。それに、街には私の家もあるので」

「えっ、家があるの?普通に暮らしているの?」

「はい、そうですよ。じゃ、行きましょうか」

 と言って、ミュは俺の身体を後ろから抱き着くようにして抱え上げた。

「ア、アン」と言ったなんとも艶めかしい声を発すると、いつの間に出したのか、背中に翼とお尻に尻尾が出ている。

 ミュは、背中の翼を勢いよく羽ばたかせると、その瞬間、フワリとした浮遊感を得て、見る見る上空に舞い上がっていく。

 驚いて下を見ていると、さっきまで居た岩場がどんどん小さくなっていくと同時に、砂漠の広大さが分かってきた。

 これじゃ、歩いて街に行くなんてとんでもない。

 おっと今、飛んでるんだった。

「ふふ、ご主人さま、今後ともよろしくお願いします」

 そう言って、抱きかかえてくるミュの大きな胸が背中にあたって至福の時間である。

 しばらく飛行していたら下に畑や川が見えてきた。どうやら町も遠くないみたいだ。

 そして、またしばらくすると、塀に囲まれた大きな街が見えて来た。

 その塀を少し入ったところで、ミュはある一軒の家の裏庭に着地した。

 街はずれである。


「ここが私の家です、どうぞお入りください」

「おじゃましまーす」

「今、明かりを点けますね」

 オイルランプだろうか、部屋の中に明かりが灯った。異世界の特徴だろうか、どうも中世ヨーロッパの感じだ。

「何か、食べますか?そうだ、お風呂を沸かしましょうか?」

「えっ、お風呂があるのか?」

「え、はい、ありますよ。その扉の向うに、トイレと一緒ですけど」

「お、おお、じゃ頼む」

 ミュはキッチンで、何か簡単な料理をしているようだ。

 しばらくするとパンとチーズを持ってやってきた。

「お腹すいてるでしょう。簡単なものしかないけど、はいご主人さま」

「あ、ありがとう」

 パンはちょっと硬かったけど、ちょうどお腹もすいていたので、美味しくいただきました。


「じゃ、風呂に入るかな」

「はい、じゃ、私がお背中流しますね」

「ちょっ、ちょっと大丈夫、一人で入れるから」

「いえ、これも下僕(しもべ)のお仕事です」

 ウルウルした目で見つめてくる。ノーとは言えない雰囲気。

「じゃ、お願いするかな」

 ドキドキ。

 風呂も日本式に湯船に入る風呂だ。

 しかも、一般庶民とは思えない大きさがある。

 お湯に浸かっていると、ミュが入ってきた。

 さっきも思ったが、白い肌にロングの黒髪で、胸も大きく、ウェストもくびれている。

 ナイスバディは、さすがサキュバスといったところか。

 背中の翼と尻尾は、どこにしまったのか、もうない。

 前をタオルなのか手ぬぐいなのか分からないが、隠している姿が色っぽい。

 ミュは湯船にゆっくり入ってくると、白い肌がほんのりと赤く染まった。

「ご主人さま、そんなに見ないでください」

「えっ、もう散々見た後だけど」

「もうー、恥ずかしいです」

 うーん、愛い奴。

「ご主人さま、後ろを向いてください」

 そう言ってミュは、俺の背中を洗い出した。

 でも、手じゃなくて、胸なんですけど。

「ミュさんや、背中は手で洗うもんじゃないんかえ?」

「この方が気持ちいいじゃないですか」

 その通りです、間違っていません、はい。

 そうこうしているうちにミュが、俺を後ろから抱きかかえたまま、耳を甘噛みしてきた。

 あっ、息子よ何している。

「ミュ、お前が悪いんだぞ」

「はい、ご主人さま、私が粗相致したのでございます。ああっ」

 そうやって、風呂の中でミュに精を吸い取られたのでありました。

 風呂から出ると、ミュのシングルベッドで二人抱き合ったまま眠りについた。


 うーん、なんか動きにくい。ぼんやりとする頭を覚醒させて、目を開けてみると目の前に美人の顔がある。

「おはようございます。ご主人さま」

「あ、ああ、おはよう」

「ふふっ、どうします?ご飯にします、それともします?」

 なんせ、若い男、息子もしっかりスタンバっている。

 思わず「はい、します」って答えそうになるが、ここはがっついてはならない。

「えっーと、じゃ、ご飯かな」

「えー、ご飯ですか?」

 ミュはなんだか残念そうな顔をして、ベッドから抜け出した。

 窓が閉まっているので、部屋の中は暗いが、わずかに隙間から射す日差しが昼であることを告げている。

 暗闇に慣れた目でベッドから立ち上がったミュの後姿を見るが、やはり美しい。

 ミュはクローゼットの中から服を取り出し、頭からすっぽり被った。腰のあたりを紐で固定している。

 その姿も美しい。

 なにをしてもさまになる。

 そのままミュは、キッチンに向かうと、朝ごはんを作り出した。

「ご主人さま、お風呂の部屋に洗面台がありますので、顔を洗ってきてください」


 夕べの風呂の部屋に行くと、洗面台があった。

 水は雨どいのような水路を流れていて、そこに板で水を止めてある。

 必要な時だけ板を取って、水を出す仕組みだ。

 日本人の感覚からしたらぜんぜん省エネじゃない。

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