第4話 この世界

 顔を洗って、リビングに戻りテーブルの上について、ボーっとミュの後ろ姿を見ていたら、ミュが「はい、お茶です」といってカップを持ってきてくれた。

「ああ、サンキュ」と言って、カップを啜る。

 うん、紅茶だ。ストレートティーそのまま。

 紅茶を飲み終える頃、ミュがパンとチーズ、それにスープを運んできてくれた。

 二人で朝食にする。


 ミュはいろいろ話をしてくるが、その内容は聞いたこともないことばかりだ。

 どうも200年間の話をしているようだ。

 俺が転生者であり、この世界の事が分からないと言ったので、ミュは親切にこの世界の事を説明してくれる。

「ミュ、俺が転生者であることは話したよね。それで、俺はこの世界のこと全然分からないんだけど、いろいろ教えてくれるかな。まず、ミュはこの世界で何をやってるの?」


 ミュの話はこうだった。

 500年ぐらい前、魔族と人間族の間で派遣を争っていたが、人間側に勇者が現れ、当時の魔王を倒して人間側を勝利に導いたそうな。

 敗れた魔族側はバラバラになり、一部は人間世界に溶け込んでそのまま住み着いたそうだ。

 だが、昔の因縁で魔族側は今だに人間から良く思われていないそうで、見つかると投獄や死刑になるとのことだった。

 ミュはその戦争後に生まれて、直ぐに人間界で生活し始めたそうだ。

 ただ、200年間同じ場所で生活するとさすがにバレるので、いろいろな街を転々として、今はこのエルバンテという街に住んでいるとのこと。

 エルバンテは人口30万人ぐらいで、北にはこの国の屋根と言われるサン・シュミット山脈があり、その雪解け水が地下を伝わってくるので、水が豊富なのだそうだ。

 洗面所にあった水も地下水を汲み上げているのだが、汲み上げるのは魔石を使ったポンプで汲み上げるそうだ。

 そう言えば、キッチンのコンロも魔石から出る可燃気体を使っているということで、この世界では電気もガスもないが、魔石を燃料にして文化的生活を営んでいるみたいだ。


 サン・シュミット山脈とこの街の間は3か月程の距離があり、その間には広大な森があって、そこには魔物が住んでいるそうで、冒険者と言われる人たちはそこで狩りをして、狩った魔物はギルドで換金するという生活を送っている。


 街と森の間は広大な草原もあり、そこでは放牧も行われているとのことであった。

 草原を走破するのに徒歩7日、そこから森である。

 だが、実際は魔物が闊歩する森の中を走破した者はいない。冒険者たちの間で言われている距離感覚では広大であるとだけ言われている。


 南側はこれまた、広大な畑と田んぼが広がっている農作地帯である。

 田んぼは西を流れる大河であるサン・イルミド川の水を引き込み、豊かな実りを得られるとのことで、この街はかなり豊かな街であることが伺われる。

 西側にはサン・イルミド川に面したところに港があるが、それは対岸との連絡用の船が発着する港になる。街と川との間は若干離れているらしい。恐らく、洪水とかを考えてあり、街の方が高台になっている。


 ここは長さが徒歩を基準としている、1フと言えば1歩の長さ、約30cmで昔の1尺とほぼ同じ長さだ。遠いところは1日、2日で数える。

 水道もあるのにこういうところはかなりアバウトだ。


 お金は全て硬貨であり、一番高いのは金、以下銀、銅、錫となっている。

 金貨がどれくらいの価値があるか分からないが、一般市民が金貨を見ることはほとんどないそうだ。

 また、金貨の上には白金貨があるそうだが、それは国家レベルの取引でしか扱っていないということで、大商人でも一生のうち何回取り扱うだろうかというレベルである。

 一応、十進法みたいで、錫10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚だそうだ。

 ただ金貨だけは銀貨100枚とのことだった。

 白金貨は金貨1000枚とのことだった。

 ちなみに円とかドルといったような通貨の単位はない。錫貨5枚とか銅貨1枚といった貨幣単位だそうだ。ここらもかなりアバウト。


 重さの単位は1フ×1フ×1フの水の重さが1モーという重さだそうだ。つまり、1モーが30kgぐらいということか。


 この街にミュ以外の悪魔が居るかと聞いてみたが、知らないということだった。

 悪魔という身分を隠しているので、他人のことは分からないらしい。


 とりあえず、朝食を終えて今日の予定を聞いてみる。

「ミュ、今日はどうする?」

「そうですね、まずはご主人さまのベッドとか服を買いに行きませんか?」

「それは欲しいけど、俺お金ないよ」

「ご主人さまの分は私が出しますので、気にしなくていいです」

 うん、完全にヒモだ。

 でも現状ではどうしようもないので、後日何かしら稼いで返すか。

「じゃ、お言葉に甘えさせて貰う。後日、働いて返すよ」

「いえ、ご主人さまはここにいてくれるだけでいいです。私、これでもいろいろ仕事してますから」

「そういう訳にもいかないし、俺も働きたいから、何か紹介してくれればいい。そうだ、冒険者ってどうだろう」

 女神様が、訓練次第で剣も魔法も使えるようになるって言っていたからね。

「そうですね、働くならどこかのギルドには登録しなければならないし、まずは冒険者でもいいかもしれません」

 チートな知識として知っていた冒険者というワードを出してみたが、意外とあっさりとした返事が返ってきた。

「冒険者以外にはどのギルドに登録されますか?」

 えっ、冒険者以外のギルドもあるの?

「冒険者以外のギルドって?」


 ミュの話では、この世界には冒険者ギルド、商人ギルド、農民ギルドの3つのギルドがあって、働くのであれば、そのどこかのギルドに登録しなきゃだめだそうだ。

 どう違うかと言えば、冒険者は魔物を狩って、それをギルドで換金して生活する人、商人は商売と工業で生活する人、農民は農業と漁業をする人だそうだ。

 そして、冒険者はギルドを通して、魔物を売る訳で、その時に税金を取られるそうな。

 商人は店を出すと毎年税金を取られるそうな、農民はギルドから土地や農具を借りて農業をして出来た作物はギルドを通して換金するとのことで、どうも農協みたいな仕組みだ。

 つまり、ギルドが市民と大きくつながっており、税金を徴取する代わりに世話もしているということのようだ。

 ミュは冒険者と商人を登録しているとのことだった。

 とりあえず、商売は何も考えられないから、冒険者だけ登録することにする。

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