第2話 出会い

 ふと、目の前が白くなって、気が付くと暗闇の中にいた。

 上を見上げると月と星が煌めいていて、どうやら、夜らしい。

 足元は砂で、近くに岩がいくつもあった。

 どうやら砂漠の中で、時間的には夜みたいだ。


 うわ、やばいな、砂漠の夜は冷えるというし、どうすりゃいいんだよ。

 とりあえず、岩にもたれて夜が明けるのを待つしかない。

 こんなところで、凍死しないようにしないと。


 どれくらい時間が経過しただろう。

 月あかりに照らされて人影が目に入ってきた。

 おおっ、女神さま、助けに来てくれましたか。

 喜んで見上げてみるとそこには女神さまではないが、すっごい美人が立っている。

 黒い衣装を着ており、肌は白く、髪は艶かな黒で、ロングである。

 一見、日本人かなと思ったが、顔の掘りは深く、どうみても西欧系だ。

 衣装の上からでは、そのプロポーションは良く分からないが、胸は大きく、腰のあたりもくびれていそうだ。

 恐らく、美の女神ヴィーナスって、こんな人を言うのだろう。

 しばらく、ボーっと見ていたが、黒い衣装を着た美人はこう言った。


「若い旅のお方。いかがされましたか?」

 おおっ、これは別の女神か。また、天界に行くのだろうか。

 そういえば、さっきの女神さま、名前聞いてなかったな。

 そもそも、神さまに名前なんてあるのだろうか。

「えっと、女神さまですか?また、天界に連れて行かれるのでしょうか?」

「ひっ、女神を知っているのですか?もしかして、あなたは神なのですか?」

「いえいえ、俺は女神さまから、この地へ転生させられた、ただの人間です」

「そうなんですか。人間なのですか」

 そう言うとこの美人はニヤりと笑った。

 その瞬間、背筋に冷たいものが走る。

 こんなところに美人がいる訳がない。

 そうだ、この人は人間じゃない、そして女神でもない。どっちかと言うと悪魔系だ。

 やばい、やばい、やばい。俺の人生ここでジ・エンドかよ。

 まだ、女神さまから貰った願いも叶えてないのに。どうするんだよー。

 くそっ、こうなりゃ、どうせ死ぬなら、こんな美人とやることやって死んでやるー。

 俺はその美人の目を見て必死に願った。


「俺の事を好きになれ。俺の事を好きになれ。俺の事を好きになれ」

 っと、美人の目がなんだかトロンとなってきた。おおっ、もしかしたら効いてる?

 そ、そうだ、名前を聞いてみよう。

「おねーさん、お名前は?」

 我ながら笑えるような聞き方である。すると、

「私は、ミュ・ローズ・サイン」

 おおっ、答えた。ではついでに、

「おねーさんの正体はなんですか?」

「私は悪魔のサキュバス。今からあなたの生を貰うわ」

 こ、答えた。サキュバスか。それは美人な訳だね。

 でも、ここで俺の人生も終わりか。

「ふふっ、本来なら、直ぐに生を貰うのだけど、なんだかあなたの事が気に入ったわ」

 そういって、彼女は黒い衣装を脱いだ。下には何も着ていない。

 その裸体が満月に映えて、まるで絵画を見ているように美しい。

 声も出ない。

 俺は吸い付くように彼女に手を伸ばし、立ったままの彼女を抱きしめた。その瞬間、彼女の口から「あっ」と言う声と崩れ落ちそうになる身体を支えた。

「ああ、精を、精を頂戴」

「精って?」

「ああ、いじわるしないで、精を頂戴」

「では、俺を『ご主人さま』と呼んだら、やろう」

「ええっ、そんな…」

「いやなら、やらないだけだ」

「で、では、『ご主人さま』と呼んだら、私の名前を呼んで下さい」

「分かった、そうしよう」

「ご主人さま」

「ミュよ」

 その瞬間、この悪魔とリンクが張られたような感覚が走った。


「な、何をした?」

「今、悪魔との契約が成立しました」

「あ、悪魔との契約?」

「そうです。あなたは私の『ご主人さま』になりました。私たちは、どちらか一方が亡くなるまで、主従の関係になります。

 ご主人さまは、私以外の悪魔を従者にできません。私はご主人さまに忠誠を尽くすことになり、代わりにご主人さまは、私に生か精を与えなければなりません」

 ええっー、なんだって。

「では、ご主人さま、早速、精を下さい」

 俺は目の前の悪魔に手を出すと、悪魔に精を与えた。


 精を与えた俺は、ぐったりしている悪魔のミュから離れた。

 ミュは起きて来て、俺の正面に座る。

「確かに精を頂きました。これで私は一生、ご主人さまに付いていきます。ご主人さまは私の面倒を見る責任がございます」

 ええっー、一生ってどういうこと?

「ちょっと、待ってよ。もし面倒を見ないと言ったらどうなるの?」

 ミュは、ちょっと困った顔で

「悪魔はご主人さまに嫌われたら生きていけません。その時は死ぬしかないのです」

 と言って、目に涙を溜めた。

 ううっ、女の涙には逆らえん。

「分かった、一生面倒を見よう。一緒に行こうか」

 って、プロポーズかよ。俺の一生一大のプロポーズの言葉は砂漠の真ん中で、悪魔相手に言うことになってしまった。

 そういえば、昔「世界の中心で愛を叫ぶ」って映画があったけど、今の俺は「砂漠の中心で愛を叫ぶ」じゃねーか。

「そっか、名前はミュでいいんだな。歳はいくつなんだい?」

「はい、217歳です」

 って、オバンかよ。

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