哀しき世界に、救いはあるのか?

私のざっくりした歴史観で間違っているかもしれませんが、戦後の朝鮮半島を日本に当てはめてみたら、といった作品。日本が東西に分かれてしまいます。

この作品を読んでいて、ハンス・ペーター・リヒターの「あのころはフリードリヒがいた」らに続く三作品を読んだ時を思い出しました。

あの作品はナチスドイツ下での生活や、ヒトラーユーゲントの体験を元に書かれているそうですが、本作品も、そんな臨場感や、しだいに嫌悪していたものから共感を得るようになりつつも、やはり葛藤と戦いながら……、といった感情の流れが、違和感なく書かれています。


老いや病といったものが、「負」としてしか扱われず、人が「物」として処理させる。フィクションではありますが、似たようなことが多々あるのが世界の現実。

特に西日本住民としては、なんだか身につまされるといいますか……。

福祉や人の尊厳を扱うテーマは、下手をするとただ嫌悪しか生み出さないものですが、全編に漂うのは静かな正義であり、こういったものは作者の健全な倫理観が成せるものでしょう。

さて、本作のたどり着く世界はどういったものでしょうか。
今後、さらに盛り上がっていく気配。楽しみな作品です。

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