第35話 超弩級機装展開波動砲(命名者:佐々木)

 でも、私とサユちゃんと新しい後輩たちだけで、あのロボ以上を倒せる戦力になるとは思えなかった。先輩二人は体力も気力も尽きて機装が解け、後輩たちの機装に守られつつ施設内に退避。私も、駆けずり回っておなかがすいていた。

 そういえば、丸一日くらいは寝てない。そう思ったら眠くもなる。機装があっても私自身が鈍くなってるのはどうしようもない。


 後輩たちが多くて一〇人くらいで協力して攻撃するが、散発的なものにしかならなかった。どこかのくにのミサイルを持ってきてる子もいたけど、ロボの手のひらで受け止められた。掌にぽつぽつっと焦げの点がミサイルの数ついただけだった。


 UFOはゆっくりと地球へ進路を向けた。さすがに速くないようだ。目が覚めたばかりだというネイさんの声が通信から聞こえ、地上のUFOが小型じゃなく、南極から出てきたあのサイズばかりになったと教えてくれた。


 私は塔の横、UFOの上部で動けなくなっていた。機装が一部を残して再生しなくなってきてる。気を失いはしないけど、さすがに体が限界だった。倒れたところを、おっさん巨大ロボに蹴飛ばされてUFOから落ち、サユちゃんに受け止められた。


 お姫様抱っこされて見たのは、月面から飛び立つたくさんの後輩たちと、地球と月の間を飛び交うUFO群が次々に破壊されていく風景だった。ぼーっと見ていることしかできなかった。

 サユちゃんの後輩が二人、それぞれマモルさんとカナデ先輩を抱き上げた状態で何かサユちゃんに伝えた。サユちゃんは小声でよし、と呟き、ネイさんへ個別の通信を入れた。


『こちらサユ。ネイ先輩。こちらは大丈夫です。始めてください。』


 通信が切れると同時に、背後の『塔』から光の帯のようなものが地球へ向かって伸びていった。同時に地球が青白い膜で囲まれ、光を遮って消えた。


「ちっ。光だって熱量ですよね」


 サユちゃんが悪態をついた。顔が怖い。


『ネイ先輩、やはり「塔」を優先すべきです。このままじゃらちが明かない』

『今やっと八人そろって本気出すところよ!「塔」は丸いのの上部中央でいいのね』


 私が先輩と三人でやったようなみんなで一つの効果を出す歌を、ありったけ集めた適合者で行うという、無理としか思えない作戦が進行していたことをここで私は初めて知った。先輩たちも知らなかった。


「そりゃあ、カナデ先輩やアオイ先輩に言うと、月ごと木っ端みじんにするだろうなって、ネイさんが言ってた。あと、転生したユイちゃんも。」


 ひどい言われようだけど、否定できない。悔しい。それはともかく、私たちもみんなが時間を稼いでくれる間に多少は回復したい。5分か10分寝かせてほしいしあったかいご飯をおなか一杯食べたい。


 歌が始まると、月に残っていた後輩たちもどんどん地球へ引き返していく。地球が近くなると歌の強さを感じるし、あのUFOの大きさが、あの男の頭がおかしくなったんじゃないかというサイズなのが一目で実感できた。

 大気圏に入る時に、私と先輩はサユちゃんマイカちゃん姉妹に守ってもらいつつ急降下して、地上に降り立った。さっと飛んで、目に入った田舎の食堂って感じのそば・うどん処の暖簾をくぐった。


 恰好はアレだけど、特撮の撮影とか、MVとか言っとけばいいでしょ。そのくらいの気持ちだったが、お店のおばちゃんは空いている席の座布団を集めて、先輩たちを寝かせてくれた。適合者の知り合いがいるとかで、実質タダにしてくれた。株式会社アトランティカで領収書を切ってくれた。私は通信で佐々木先生に確認した。適合者のうち最初から10人くらいは発信機でいつも場所を把握しているから、とりあえず領収書のことだけ明かしておけばいいかなー。


 食べている間にも、歌が高まっていく。私のラブソングと違って、アップテンポで歌詞も前向きというか励ますより自分で打破していく感じの男性アイドルユニットの曲だった。そういればそのユニット、全員適合者だったなあ。




 汁まで全部飲み干し、おばちゃんにお礼を言って、店を出る。束ねた歌を打ち出す超弩級の砲を機装で作り上げるため、私はまた大気圏を抜けだした。その頃には、ザコUFOは殲滅されていた。



 お前の足で 立ち上がれ

 代わりなんか 誰にもできない

 お前の腕で  掴み取れ

 代わりになんか なろうとするな


 そうして初めてお前は 大切な人を守る力を得るだろう

 想いを貫け 大切な人に届くまで 



 献血で偶然適合が分かった女の子。担任する子供たちを機装でメルティから守った先生。大人の目を盗んで養護施設から抜け出したところを月へさらわれてしまった男の子。人間として生まれ変わったユイを受け入れてくれた、生まれることができなかった小さな子。まだ新人のころの私に救助され、自分も早いうちに志願して適合者部隊に入った男性。

 数え切れない人の想いが、少しずつ沁み込んでくるような気持ちになる。全部、あいつらに伝えてやろうじゃないッ!!


 本家のゲリラライブで、適合者じゃない人含めた何万人分の気持ちが、砲のエネルギーに加わる。砲がでかすぎるし放出するエネルギーが膨大で支えきれなくなりそうだと思った瞬間に、サユちゃんと月で出会った彼女の後輩が支えてくれた。

 発射の合図と制御はネイさんたち八人+三人の『管理者』にかかっている。月の塔の三人は、周りの想いに染まっていくうちに洗脳が一時的に抑えられたみたいだ。


「いつでも、言ってくださいッ!」

「ええ。行くわよ。……撃てーーーーッッ!!」


 ネイさんの号令と同時に、機装砲(仮)は何かの波動を打ち出し、逃げも隠れもしない超巨大UFOの真ん中を打ち抜いた。

 超巨大UFOは真ん中でへし折れ、左右ぶつかって、いくつも爆発が発生した。宇宙空間だから音はしないけど、気分的には気持ちいくらいどーん、ばーんと脳内に音が響いて、すがすがしいというかすっきりした。


 安心したところで、私は眠気がぶりかえして、落ちる所だった。サユちゃん何回もありがとう。

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