第21話 ぼくは、魔女になる

 先生がリーダー……ラヴィニス・メイソンさんに断って、私たちに通訳してくれることになった。ラヴィニスさんは逆に、質問などあれば自由に聞いてくれていいとまで言い切った。



 ラヴィニスさんと、アトランティス社長アーサーを含む兄弟たちは、アーカムで生まれ育ち、その周辺、ふたりの場合はボストンで暮らしていた。のちにアトランティスとレムリアになるそれぞれの会社も初めは暮らしていた町に設立された。


 長男のラヴィニス、長女、次男のアーサーは他のきょうだいと別に、両親から特別な教育を受けた。彼らの先祖は、セイレム(もしくはセイラム)という小さな田舎の村の出身だそうだ。

 その村は、私たちにとっては、世界史の授業で、大きな魔女裁判でたくさん人が亡くなったとだけ紹介されるところでしかない。試験や受験問題で出るようなとこでもないと思う。実際に魔女がいたわけでもないだろうし、逆に時代的にまじないとか珍しくないと思う。


 でも、ラヴィニスが言うには、魔女は、本当に、いた。村じゅうが魔女裁判で盛り上がる前に、一家は山奥に身を隠し、両親は三人の子どもに自分たちの知恵と知識を全て叩き込んだ。そして事件の終息ののち、住処をボストン付近に移した。


 アーサー氏がアトランティスを立ち上げたときに、自分やほかの特別な人々が受け継いだオカルトや超科学的な知識を、社会の人々のために役立て、必要があれば社会の目から隠すためなのだとラヴィニスに語った。

 だけど、ラヴィニスのレムリアは、人智のおよばないものを社会から隔離し、出来れば抹殺する為に作られた会社だ。セイレムや魔女裁判のことを他の兄弟より長く深く学んだ彼は、自分たちのような特別な生まれや知識を受け継いだ人間は一時はよくても必ず関係が破たんして迫害される、と信じるようになっていた。


 なので、両社は同業者のようだけども、片方は保存を、片方は破壊を専門としているようなものだった。レムリアは、超古代文明の遺跡を見つけると、他の古代文明とだぶった時代や不自然にならないものを残して、粉々に破壊してきた。


 そして、一〇年ほど前よその遺跡で見つけた小さなもので唱石の使い方を少し理解していたラヴィニスは、塔から離れた遺跡で壁画や記録をまねて、呪文を歌った。だけど、呪文は塔を動かすためのもので、管理者しか歌えない。不良品として、効果が出ずにメルティの原型を生み出した。


 それ以来、少し後悔したラヴィニスは唱石を使わずにいたけれど、私たちがルルイエ二号に行ってる頃、レムリアの中で特にラヴィニスと親しい人だけでの探索で、『大洋の塔』と周りの遺跡を発見し、破壊を始めたところだった。


「君たちのような存在を知ったのも、海底の塔の発見の時でね。たぶん君かな? 石を通じて歌が聞こえたよ。ぼくが失敗した理由も分かった。

 『副産物』は放置してもよいと判断したよ。君たちが消耗してもいいし、おかげでいがみ合っていた人々が理不尽な存在から身を護るというひとつの目的のために手を取り合える。」


 何度も実験が行われ、メルティの歌は込められた力が大きくなってしまった。止めるには、それ以上の歌で上書きするか、取り消すプログラムを塔に実行させるしかない。でも塔が理解するためのプログラムを作れる人は、管理者だけ。リディアさんたちはホログラムなので移動できないし、この塔の管理者はいまだに姿を見せない。


 先生すら考え込んでる。私たちは迷った。全員の動きが止まったとき、どこからか、こぶし大くらいの何かが投げ込まれて爆発し、全員が煙に包まれた。


 助手さんから通信が入る。


『少なくとも三か国の軍隊の、洞窟内への突入を確認しました。一つはアメリカ軍ですがあとは分かりません』


 先生が、全員殺す気だろうな、と笑った。煙で見えないけど、さっきまでと同じ位置からラヴィニスの笑い声が聞こえた。


「(そうだね。ぼくたちの存在はなかったことにされるか、調査中に遭難して死亡、かな。)」

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