第22話 決め手がない

 前の戦いでユイさんが教えてくれた。

 効果が大きい歌、その中でも塔を動かす歌は、込められた力のぶんの効果が発揮しきるまで、止めることはできない。キャンセルはできないようにできてる。これは、管理者以外なら飲んだり食べたり眠ったりで歌が止まった瞬間にたまった力が暴発しないための安全策だと思う。

 弱い歌なら取り消せるけど、同じ人の歌でなければいけない。


 歌っていた人が命を落としたり、そこまででなくても二度と歌えない状態になると、どんな弱い歌でも、効果が切れるまで手を出せなくなる。


 歌の効果が要らなくなったらどうするのかというと、元の歌の効果がなくなるまで、その歌の効力を打ち消す歌を歌い続けるしかない。だから私たちはルルイエ二号から脱出した後、ひと月くらいずっと体力や精神力を吸われ続けてて、ベッドから出られなかった。


 ラヴィニスも察してるらしく、兵士を銃撃しつつ、自分はいつでも死ねるようなそぶりを見せてくる。動きを止めたいけど今拘束できても兵士に殺されそう。こういう時に限って、生かしておいた五人の部下が目覚めていて、足にしがみついたりして邪魔をする。

 兵士たちに多少隙ができたところで、私とサユちゃんが部下と兵士を相手して、マモルさんとカナデ先輩をラヴィニスへ突っ込ませる。


 あとは兵士や部下と、先輩たちの間になるように場所を取って、派手に展開。塔が動き始めてるぶん、唱石の力は十分。背中のパーツをどんどん大きくひろげて、地面に突き刺して切り離し、壁にする。先輩がそれを足場にして跳んだり、ラヴィニスを叩きつけようとするけど、投げる前に抜け出してしまう。


 兵士がどんどんわいてくる。見た感じ、確かに三種類いる。ひとつは明らかにアメリカかなって思う。負傷者は素早く回収するし、ほかの兵士より火器の口径が大きいし、なんか単語が聞き取れる。あとはロシアと、一番見慣れない雰囲気のはたぶん中国かな。人数は多いし連携がすごいけど、他の兵士を巻き添えにしてまでさーっと銃を撃ち尽くしてさっといなくなる。


 部下五人も石を持ってるのか、銃を捨てて呪術用っぽいナイフと手足中心に機装を纏って徒手空拳に切り替えてきた。私の苦手なパターンだ。機装があれば普通の銃火器は関係なくなるから兵士は近寄ってこない限り無理できるし、近寄ってきたら来たで機装ミサイルとか機装剣の巻き添えだし。ミサイルはさすがに先輩やラヴィニスに当たったときに怖いので小さくして数を減らしてる。


 疲れてきて、五人VS私とサユちゃんは膠着状態になった。どんどん入れ替わる兵士たちは私が気づいたらぷちミサイルでぶっ飛ばしてるけど、狭い場所で私たちが固まってるせいで、兵士は先輩たちのほうへ近づけない。


 あ、アメリカ(仮)がバズーカ?っていうのかなそういうの持ってきた。遠距離から狙う作戦に切り替えたみたいだ。しかも、他の兵士を密集してせき止めてる。


 ラヴィニスはほぼ防戦一方なのに、体力的にも余裕を感じる。足運びが軽い。あまり動かずに先輩の猛攻をさばいてる。しかも、マモルさんの連携を多少喰らっても、カナデ先輩の本命の一撃はまったく喰らってない。時々、隙をついて殴り返しさえする。

 マモルさんの動きはわからなくても、もしくは無視して、先輩のほうは全部、動きを先読みしてるんだと、見ていてわかった。


 カナデ先輩の動きは、彼女の家に伝わる武道の型をもとにしている。その武道について知っているのかな。珍しい型で、もう先輩の家族しかやってないらしいそんなのを熟知してるとか、私たちのこと、「ある程度調べてる」とかいうレベルじゃないよ。


 膠着している間に、遺跡に入れなかった構成員が変な魔術を行いながら追いついてきた。彼らがふさいでいたアメリカ(仮)の兵士を全部見えない何かで蹴散らした瞬間、急に体が重くなった。私もサユちゃんも、五人の部下も、ひざを折った。先輩たちも。

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